夫婦間で子供が連れ去られで困っている場合、探偵に依頼すれば解決できるのか?この記事ではその点について解説します。
基本的に、まず、法的な対処法を弁護士に相談すべきです。その上で、探偵業者を雇って、所在調査や相手の現状の調査報告書を有効活用していくという流れが件名です。
子供の連れ去り案件の分類
子供の連れ去りの案件では、大まかに以下のような分類があります。
- 離婚前で、片親が無断で子供を連れ去った場合
- 離婚後で、親権の無い親が子供を連れ去った場合
またその他に、国内の案件なのか日本と海外にまたがる国際案件なのかで状況が変わります。国際的な子供の連れ去りに関しては、ハーグ条約の特別救済措置があります。ハーグ条約に関しては別の記事で説明していますのでここでは割愛します。
離婚前の子供の連れ去り
ある日、帰宅したら唐突に配偶者が子供を連れ去って、行方不明になるというパターンがあります。この場合、相談者は動揺して何をしていいかわからない状態になります。
まず、子供がどこにいるかを確認したいという一心で、探偵業者に相談をするケースも多々あります。しかし、日本人同士の夫婦、あるいは日本人の妻が子供を連れ去ったケースの場合、DVの特別保護措置を悪用してシェルターに入っているケースがあります。
早く所在を確認し、子供の安否を確認したいという気持ちはよくわかります。ただし、虚偽であってもDVで訴えられシェルターに入っていると、所在調査が著しく困難です。可能だとすれば、配偶者の勤務先や子供の学校などが特定できていて、そこから追跡できる場合のみです。
警察への捜索願で実情把握
相談者にまずやってほしいのは、警察への捜索願の届出です。こうした案件では、事故に巻き込まれて失踪したというより、配偶者が意図的に子供を連れ去った案件であるのが普通です。警察への捜索願は、実際に捜索してもらうというより、子供が配偶者によって連れ去られているかどうかの確認と、連れ去られた側の配偶者がDVの特別保護措置の適用を受けているかどうか、を確認する手段として利用します。
その場合、警察は捜索願を受け付けません。DVの特別保護装置が登録されている場合、警察でもその確認がすぐにできます。また。配偶者が弁護士を雇ったりした事が分かれば、警察は、民事不介入ということで、やはり、捜索願を受付しません。
警察が捜索願を受付しないことが分かれば、配偶者が意図的に子供を連れ去ったことが決定します。配偶者が、DVの保護措置が受けているなら、配偶者と子供はシェルターにいる可能性が高まります。配偶者の実家に経済的余裕がある場合、配偶者の実家や新規に契約した民間の賃貸物件に潜伏している可能性もあります。
DV等の特別保護措置
DV等の保護措置を受けている場合は、一時的に、配偶者と連絡を取ることができなくなります。しかし、その状態がずっと続くことは稀です。遅かれ早かれ、子供を連れ去った配偶者が弁護士を雇ったり、親族を代理として、離婚に向けた調停を申し立ててくるのが普通です。
その際に、子供を連れさられた親は、共同監護などを求める審判を申し立てることができます。ただし、現状、子供を連れ去った側の親が有利になり、連れ去られた側の親が不利な状況に陥ることが多々あります。
日本では、離婚後は、単独親権しか認められず、どちらかに親権を決定する必要があります。ちなみに、他の先進国では、共同親権が当たり前です。そして、子供の監護の既成事実を作る為に無断で子供を連れ去った親の方が、親権を与えられやすいという、理不尽な事態が発生します。連れ去った後の期間が長ければ長いほど、生活の継続性の原則に従い、連れ去った親が親権を得やすくなるのです。
離婚後に親権の無い親が子供を連れ去った場合
親権のある親が、親権や監護権のない親に子供を連れ去られた場合は、法的な手続きにいろいろなパターンがあります。法的手続きと並行して、探偵の調査が有効な場面もあります。また、警察が誘拐罪で連れ去った親を逮捕するケースもあります。
法的な手段としては、以下の方法があります。
- 家庭裁判所への調停または審判の申し立て
- 高等裁判所もしくは地方裁判所への人身保護請求
家庭裁判所への調停の申し立では、調停委員に、連れ去った親に子供を返還させるよう協議させる手続きです。ただし、調停を申し立ててから調停開始までに通常1カ月程度かかります。その間、待てなければ、調停申し立てと同時に、保全処分(調停前の処分として、子の返還を裁判所から命令させる)を申し立てもすることができます。
調停をせず、家庭裁判所に審判を申し立てることも可能です。この場合も、決定までの措置として、審判前の保全処分を申し立てることが可能です。審判前の保全処分では、その必要性、緊急性が高い場合にのみ求められます。例えば、現状では子供が危険な状態であるというような証拠を探偵業者に依頼して収集できたりするとラッキーです。
調停前の保全処分の場合、相手が従わくても強制できません。しかし、審判前の保全処分では、強制執行可能です。
人身保護請求
人身保護法に基づく、高等裁判所もしくは地方裁判所への人身保護請求という制度もあります。
離婚成立時に正当に親権者となっている場合、親権者が子供を監護することが法的に認められています。その状態から、勝手に子どもを連れ去った親は、権限なしに子供を略取していることになります。その場合、人身保護請求による子供の引き渡しが認められるわけです。
親権のない親が子供を連れ去ると誘拐罪?
2021年8月、離婚係争中で別居している妻側にいる子供を連れ去った、福岡の男性が、未成年者誘拐罪で、懲役1年(執行猶予3年)の有罪判決を受けました。この事件では、妻が一方的に、2020年、当時4才の長男を連れ去って、離婚係争中となっていました。
2020年8月に、その男性が、妻の許可を得て、長男と面会した後、長男を妻に返さず、家に連れ帰りました。男性側の主張は、妻が一方的に子供を連れ去ったわけだから、自分も実力行使で、子供を連れ去って、おあいこにした、ということです。しかし、福岡地裁は、「家裁などを通じた法的手段を取るべきだ。親権の行使として正当化できない。」として、有罪判決を言い渡しました。
参考:https://www.yomiuri.co.jp/local/kyushu/news/20210806-OYTNT50040/(読売新聞・長男連れ去り 父に有罪判決…福岡地裁(2021/08/06 08:52))
先に実力行使で、子供を連れ去った側のみが得をして、後から取り戻した方が、誘拐罪となったわけです。子供を連れ去られた親からの相談を受ける探偵社としては、やるせない判決です。しかし、これが現実ですので、実力行使で子供を取り戻すことは現状自殺行為となってしまいます。ご注意ください。
子供の連れ去りのハーグ条約
子供の連れ去りのハーグ条約は、正式には、「国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約」と言われます。国際結婚が破綻した際の、子どもの扱いについての条約です。親権や面会権を確定しない状態で、無断で16歳未満の子どもを国外に連れ出す行為を取締り、元の居住国への返還させるルールです。この条約は、元の居住国から国外へ連れ出すときにのみ適用され、国際結婚でも、当事者両方が日本国内に居住している場合は適用されません。
子供の連れ去りのハーグ条約は1980年に発足しましたが、日本が調印したのは2013年です。日本はハーグ条約を締結しているのに、いまだに共同親権の制度を導入していないため、ハーグ条約の運用が機能していないという批判があります。
国連の子供の権利条約
日本は1994年、子どもの権利条約、にも批准しています。条約には、父母の共同養育責任が明文化されています。しかし、単独親権制度しかない日本では、その目的が達成されていないと言われています。育児放棄、虐待、差別、人身売買等の問題が発生したとき、片親だけの親権では、十分な対応ができないということです。