ひろゆき氏は、名誉毀損で訴えられ、敗訴し、2021年10月に、60万円の損害賠償金を支払いました。ひろゆき氏は、今まで訴訟で負けても、賠償金を支払ったことがなく、約30億円の支払いを無視してきたと告白しています。
以前は、勝訴しても、被告が資産を隠し、支払いを無視すれば、原告は何もできませんでした。ひろゆき氏は、その状況を逆手に取り、わざと裁判に負けて、支払いを無視し、時効を待つ戦法を取っていました。
しかし、2020年4月に、財産開示手続きの法律が改正され、賠償金支払いを逃げると、刑事事件化することになりました。ひろゆき氏も豚箱に入れられては困るので、賠償金を支払ったということです。
財産開示手続きの罰則強化
2020年4月1日に、財産開示手続きの法律が改正されました。不出頭や虚偽の陳述の場合、以前の罰則は30万円以下の過料でした。過料というのは、行政罰です。罰金や懲役刑のような刑事罰とは違い、前科・前歴になりません。
2020年4月1日以降、不出頭や虚偽の申告の場合、6か月以下の懲役または50万円以下の罰金(刑事罰/改正民事執行法第213条第1項)となりました。
6ヶ月以下の懲役又は五十万円以下の罰金は刑罰としては最小単位に近いのですが、もろに刑事罰ですから、逮捕もありますし、前科前歴がつくことになります。30万円以下の過料とは雲泥の差です。
法的手続きと債権回収の流れ
判決などの債務名義を取得した後の、債権回収の流れについて、簡単に解説します。
債務名義が取れると、強制執行ができます。強制執行とは、銀行の預貯金、不動産物件、勤務先の給与、車両等の動産を差し押さえることを指します。
以前問題だったのは、裁判所は、預貯金、不動産、給与を探してくれないし、そういう権限を債権者に与えなかったことです。
そこで、2014年4月に、財産開示手続きという制度ができました。強制執行がうまくいかなかった場合、債務者を裁判所に出頭させて、自己の財産を開示させる手続きのことです。しかし、これば手ぬるい制度で、実効性に欠けていました。
そのため、2020年4月に、財産開示手続きが強化されました。それで、ひろゆき氏のように、強制執行の弱点をついて、支払いを無視していた人がが撃退されるに至ったのです。
財産開示手続き改正前の状況
以下は、財産開示手続きが改正される前のよくある状況です。2020年4月以前であれば、債務者に支払い意思がなく、預貯金なども隠され所有不動産もない場合、判決は紙切れ同然でした。
勝訴判決
↓
強制執行
↓
債務者の財産不明で強制執行失敗
↓
財産開示手続き
↓
無視される
↓
回収不能
↓
裁判費用・弁護士費用を損して、泣き寝入り
財産開示手続き改正後の状況
財産開示手続きで、非協力だった場合に、刑事罰となることになりました。これによって債権回収がだいぶ楽になったと思います。
勝訴判決
↓
強制執行
↓
強制執行失敗
↓
- 預貯金債権等の情報取得手続
- 財産開示手続き
↓
財産開示手続きを債務者が無視すると、刑事事件化する
↓
回収の可能性が格段にアップ
債権範囲についても拡大
財産開示手続き改正以前の、財産開示手続きが利用できる債権範囲は以下でした。
- 判決
- 調停調書
財産開示手続き改正後の債権範囲は以下のようにグッと広がりました。
- 判決
- 調停調書
- 仮執行宣言付支払督促
- 仮執行宣言付損害賠償命令
- 公正証書
- 第三者からの情報取得手続き
強制執行や財産開示手続きが不成功の場合、不動産、勤務先、預貯金、株式等の情報取得手続きも利用できます。ただし、情報がいろいろあり、これをやったから、資産調査が完璧にできるという程の威力はありません。
- 不動産情報
不動産情報取得のポイントは、以下の通りです。
- 法務局から、不動産の情報を取得できます。
- 強制執行をやって、不成功場合にのみ利用できます。
- 財産開示手続が不成功の場合のみ利用できます。
- 勤務先情報
市区町村や年金事務所から、債務者への勤務先(給与の支給者)の情報を取得できます。ただし、以下のような制約があります。
- 強制執行が不成功の場合にのみ利用できます。
- 財産開示手続が不成功の場合のみ利用できます。
- 婚姻費用や養育費、生命身体侵害の不法行為(傷害等)の場合のみ利用できます。
- 預貯金情報
銀行等から、預貯金情報(支店名,口座番号,残高)を取得できます。これは、強制執行をやって、不成功だった場合にのみ利用できます。
また、情報取得する銀行を指定しなければなりません。横断検索ではなく、1件毎のしらみ潰しです。
- 株式情報
株式情報取得のポイントは、以下の通りです。
- 証券会社から、上場株式・国債等の情報を取得できます。
- 強制執行をやって、不成功だった場合にのみ利用できます。
- また、情報取得する証券会社を指定しなければなりません。横断検索ではなく、1件毎のしらみ潰しです。
詳細は、裁判所の第三者からの情報取得手続を参照してください。
まとめ
財産開示手続きや第三者の情報手続きが改正され、2020年以前よりは、債権回収がやりやすくなりました。得に、財産開示手続きを無視すると、刑事罰で逮捕されることもありうる状況になったことは、大きな進歩です。
ただし、これらの法的手続きは、債務名義が取得できた後にしか利用できません。訴訟をやってコストをかける意味があるかどうか、見通しを判断する為に、対象者のおおよその資産調査を探偵に依頼することは有効かもしれません。
最初から、法的手続きを順序立てて、進めていく意思が決定しているなら、探偵業者を利用する必要はなく、弁護士を雇ってどんどん手続きを進めていけばよいと思います。
「5分でわかる資産調査」のページもご覧ください。