公開情報の分析として、Twitterによるイギリス国防省発表を研究している。日々の更新でのウクライナ情勢は報道機関、ブロガー、研究所に比べ独自のものもあれば、既に周知された情報もある。独自情報の場合、NATO関連に発展する可能性がある事項やイギリス国民の経済に影響をもたらす情報が多い。周知された情報の場合、公的機関として入念なファクトチェックを行った結果であることや、ウクライナの作戦実行への配慮が窺える。日々の更新を他のニュースと比較研究することで、国防省が何に留意しているか考察できる。今回は7月の発表から特に独自だった事項を取り上げよう。
黒海艦隊と黒海穀物同意
ロシアの黒海艦隊(BSF / Black Sea Fleet)の動向を英国防省は以前から注目しており、ロシアは7月に黒海穀物イニシアティブ(Black Sea Grain Initiative)の離脱に踏み切った。31日中、5回も国防省が言及したことから入念だろう。黒海艦隊の影響はNATO圏内であるルーマニアにも及ぼしており、NATO筆頭国としての厳戒が感じられる。また、今後の穀物高も予想されることから広く周知する必要があり、国家分析機関の役割も高い。
ダイジェスト
■7/7
ロシアはマリウポリを本部とする新たな守備範囲を設ける。新型艦も配備される予定でパルチザン対策を取りつつ黒海艦隊の動きを円滑にさせる目的がある。
■7/20
黒海穀物同意の離脱(7/17)について、ロシアは自国の利益にならないと以前から判断していたと推測される。脱退理由として機雷の存在とウクライナが黒海の穀物ルートを軍事利用していると述べたが根拠は明らかでない。黒海は今後BSFが警戒に当たるが、BSFとしてもリスクを負うことになる。
■7/23
ロシアはオデーサやウクライナ南部に対する長距離攻撃を増やした。チョルノモノスク港の穀物サイロ、ルーマニア国境付近の埠頭が被弾。国会穀物同意を離脱したことがいよいよ表面化した。
■7/26
BSFに最新哨戒艦セルゲイ・コトフが黒海南部に配備されパトロールを開始。ウクライナ商船の妨害をする可能性があると警鐘する。
■7/28
黒海穀物同意後、初のロシア・アフリカ首脳会談に言及。黒海穀物同意によりアフリカ勢に食料を供給できていたが困難な模様。一時的な価格引き上げだけでなく、今後2年のアフリカでの食料不安が増すと懸念した。
BSFとは別に、7/14の発表ではサンクトペテルブルクで行われる海軍記念日行事に原子力潜水艦が初めて不参加になったと発表された。8/4にもルーマニア国境に近いウクライナ内にドローン攻撃がされており、黒海情勢は治まっていない。これら海上の察知能力について英国防相の動きは早い。
セルゲイ・スロヴィキンの処遇
一方で公的機関ならではの慎重な見解もある。プリゴジンによるワグネル反乱を事前に知っていたとされ、ロシア航空宇宙軍総司令セルゲイ・スロヴィキンが逮捕されたとニュースが流れた。早いメディアでは6/29に報道されていたが、当時、英国防省は「正確な逮捕報道が確認できていない」と述べた。その後も、ウォールストリートジャーナルでは「逮捕」と報道、BBCでは「休養中」と報道されるほど情報入り乱れており、マスコミにない英国防省の慎重さが窺える。
■7/2
航空宇宙軍の重要なイベントである2023国際航空ショーMAKSは中止が決定された。航空宇宙軍司令のセルゲイ・スロヴィキンは姿を見せていないと、逮捕について言及していない。
■7/5
スロヴィキン単体としての発表。未だ逮捕報道は確認できないと述べ、同氏について「2017年からワグネルと深い関係にあった」「軍内に影響力を持ち、処分が困難な可能性がある」と紹介している。
■7/12
ワグネル反乱以後、初めてゲラシモフが姿を現し、スロヴィキンの副官であるビクトール・アザロフと対談した。本人が出演しなかったことから、更迭の疑念が深まる。
言ってしまえば、イギリス国防省情報更新は他のマスコミに比べると「遅い情報」となることがあるが、公的機関として正確性が保たれている。他のメディアと読み比べて補完し合うことが情報分析のコツだ。私の場合、ISW、BBC、ロイターで比較研究している。独自のメディアチャネルを構築し、情報戦を制してほしい。