2024年のウクライナ情勢はアウディーイウカの攻防がメディアで取り上げられており、2月17日ウクライナが公式に撤退を発表した。日本からすればこのような陸戦の注目度が高い一方、欧州では黒海情勢が同じくらい注目されている。これまでは黒海艦隊を擁するロシアとNATO加盟国のトルコといったパワーバランスだったが、ウクライナが黒海艦隊に優勢を示している。黒海艦隊の損失は軍戦隊として補充に支障をきたし、黒海輸出経路が正常化すれば世界経済に恩恵をもたらす。黒海の最新情勢をチェックしよう。
黒海の基礎知識
最北部ウクライナから見てロシア→ジョージア→トルコ→ブルガリア→ルーマニアに囲まれた内海。黒海に面するウクライナのヤルタ、ロシアのソチは温暖な観光地としても知られている。トルコのボスポラス海峡を出口とし、エーゲ海・地中海を経ることも可能だ。トルコとロシア以外からすれば海路での貴重な調達路ともなる。経済面で言えばウクライナ小麦の輸出を左右し、これはアフリカ方面の食料確保を特に左右する。軍事面で言えば各物資の調達は勿論、地政学として黒海で優位に立つことはトルコ及びNATOへの大いなプレッシャーだ。
イギリス国防省から黒海に関する情報
◼︎ 2/6 イギリス国防省Xポスト
ウクライナ情報総局がロシア艦イヴァノヴェッツを撃沈したと発表。同艦はクリミア西海岸を巡回、ライトバルブというシステムで艦船、ヘリコプター、長距離哨戒機に照準データを送受信しており、依存度は高い。黒海艦隊は依然行動可能だが、対象地域では作戦再編が必要。
◼︎ 2/10 イギリス国防省Xポスト
クリミア、ベルベグ空軍基地のレーダー管制調機が破壊された。これで黒海地域の航空能力がさらに低下し、A-50早期警戒航空機の負担も増す。そしてパイロットや地上兵の疲弊を蓄積し、作戦失敗や誤爆を誘発する可能性が高まる。
◼︎2/15 イギリス国防省Xポスト
2月14日、黒海艦隊のロプチャ級揚陸艦ツェーザル・クニコフが水上ドローンにより撃沈。同クラスの10隻のうち3隻がウクライナにより無力化された。後方支援に特化した艦船のため今後のロシアリソースは制限される可能性がある。再度攻撃があった場合、また、ケルチ橋が封鎖された場合物質の支援は困難になるだろう。
◼︎2/25 イギリス国防省Xポスト
開戦当初、黒海艦隊は大いに優勢で黒海北西部で展開していたが、ウクライナは海軍戦力を補うものとして水上ドローンを始め非対称的な手段を用いることで形勢逆転、黒海艦隊は東部へ追いやられている。
■3/6 イギリス国防省Xポスト
黒海東部ケルチ海峡付近にてロシア哨戒艦のセルゲイ・コトフが沈められる。2月のツェーザル・クニコフの撃破時と同様のマグラV5水上ドローン (Magura V5′ maritime uncrewed surface vehicles)が投入された。 セルゲイ・コトフは2022年配備された新型艦。昨年末も撃沈された黒海艦隊の大型揚陸艦ノボチェルカスクを含め、5週間内に3隻撃沈のカウントとなった。
一連の損失によりロシアは兵の疲弊と作戦範囲の変更を余儀なくされている。ドローンが無視できない存在としてロシアのショイグ国防相は訓練の強化を言及。また、海軍司令に元黒海艦隊司令のアレクサンドル・モイセフが後任に就くと対策が施される。
一方のウクライナは水上ドローンを効果的に使うことができ、2023年12月のウクライナ港湾輸出量は開戦後最多と朗報があった。小麦輸出量、すなわち各国の食料供給のバランスが崩れれば治安の悪化を招く。黒海という経済、地政学にあらゆる影響をもたらす地点を今後も注目してほしい。