アメリカへ移住した相続人の所在調査の相談が頻繁にあります。土地の相続問題に関して、相続人の一人がアメリカに移住していて連絡がつかず困っているケースがあります。放置されていた山林等の再開発等で相続手続きが完了しないケースもあるでしょう。
いずれにしても、相続人全員の同意がないと、不動産の売却や権利移行手続きが完了しません。また、仮に連絡がついたとしても、印鑑証明書や戸籍謄本の制度がない外国居住shの場合、サイン証明書、在留証明、相続証明等、必要書類をそろえるのに苦労することになります。今回は、アメリカでの人探しや所在調査の方法について解説します。
アメリカの所在調査の方法
まず、相続等の問題に関してであれば、外務省の在留邦人の所在調査という制度を利用できます。他にネット検索等で、運良く人探しができることもあります。しかし、アメリカの探偵に調査依頼するのが最も確実な方法だろうと思います。
外務省の在留邦人の所在調査
外務省の在留邦人の所在調査は、6ヶ月程度かかる上、アメリカ国内で流通しているデータベースを使用して所在調査を行うわけではなく、日本人コミュニティに連絡して情報提供を呼びかける方法となります。その為、調査精度が高いとは言えず、結果判明する確率が高いとは言えません。
海外の探偵調査
相続関係の調査の場合、事前情報は、本人がアメリカ人と結婚するまでの戸籍謄本です。その中に結婚相手のカタカナの名前、生年月日、アメリカ人夫の出身の州が記載されています。
アメリカは情報公開制度が発達しているため、オンラインのデータ検索で、個人の住所履歴等を判明させることができます。特に探偵業者や司法関係者に公開されているデータベースでは、膨大な個人情報データが瞬時に検索可能となっています。日本人の常識では考えられないことでしょう。しかし、本当は、世界の主要国と比較して、日本が個人情報の管理に関して神経質過ぎるのが現状です。世界でも、アメリカが、最も個人情報に関する公開情報が多い国で、逆に、日本が最も個人情報の公開情報が少ない国と言えます。
アメリカでは、選挙人情報、公共料金登録時の情報、税務滞納情報、逮捕歴情報、訴訟歴情報、破産情報、税務滞納歴情報等の様々な個人の関する情報が、郡政府や裁判所から公開されています。更に、探偵業者や司法関係者専用のデータベースでは、社会保障番号の関連情報や運転免許や車両登録関連の情報、携帯番号の登録情報等までカバーされ、随時、データベースが更新されています。
個人の所在調査に関してのみ言えば、実際、EU 一般データ保護規則(GDPR)の規制等とは無関係なのです。例えば、調査会社であれば、ほぼどこの国でも個人の所在データの収集が可能ですが、日本を含む東アジア諸国では、調査会社でも政府の管理データにアクセスできず、所在調査が非常に困難な現状となっています。
アメリカ移住者のプロフィール
このケースの調査対象者は、1940年から50年代にアメリカに移住した戦争花嫁であることが多いです。相続人の一人がアメリカへ移住しているため連絡がつかず、その相続人のアメリカの所在調査を弁護士や司法書士から依頼されるケースが多々あります。
戦争花嫁の歴史
よくあるケースは、対象者が1950年代にアメリカ軍人と結婚し、アメリカに移住後、親族との連絡が途絶えているというような場合です。第二次世界大戦後、約5万人の日本人妻として、アメリカ軍人の夫とアメリカへ移民しました。
彼女たちは当時、いわゆる戦争花嫁と呼ばれていていました。戦争花嫁は、敵国の兵士と関係を持った国賊とか、パンパン=外人専門淫売などという偏見を持たれ、非国民扱いされていました。そのため親族からは、らい病患者のように扱われることがよくありました。このような背景から、アメリカ移住後は日本の親族との交流はなかなかできない状況であった方が多くあります。
彼女たちはアメリカへ移住してから、アジア人が一人もいない田舎の農家の奥さんとなり、苦労して生活しただろうと思います。アメリカでも戦争花嫁は、パンパン=淫売だったと思われ偏見を持たれていたようです。Japan Timesの記事によりますと、戦争花嫁の一人であるあつこさんは、戦後20年経った後ワシントン州で開催された日本のお祭りに行かれた際、アメリカ人に「ここはおまえのいる所ではない」と言われたそうです。このように戦争花嫁は、現在に至っても「恥」というレッテルを張られるようです。
アメリカ人氏名のスペルがわからない問題
日本に駐屯していたアメリカの軍人はヒスパニック系やユダヤ系、スラブ系の子孫が多く、カタカナで表記された名前からアルファベットに復元することが困難です。例えばジェームス、ジョンなどのファーストネームは簡単に復元できますが、ペレッキヤ(PELLECCHIA)、ラビノビッチ (Rabinowitsch)など、アルファベットへの復元が困難な場合がよくあります。一般的なラストネームならこうだろうという推測はできても、実際は、特殊なスペルだったりすることもあります。
このような場合、可能性のあるアルファベットのスペルを全て試すしかありません。そういう意味で、スペルが完璧にわかれば、すぐに所在判明できる案件でも、戸籍にはカタカナ登録しかないことが調査を難航させる原因になることがあります。
所在がわかっても連絡を無視される問題
また戦争花嫁の多くは、過酷な環境での生活を余儀なくされていました。そのため社会に順応できなかったり、旦那さんとのトラブルなどで、離婚しているケースも多くあります。かといって帰国しても家族から白い目で見られるなどという理由で、日本には戻っておりません。アメリカの場合、離婚していても、アメリカ移住後の最初の記録が判明すると、現住所まで追跡することはそれほど難しくありません。彼女たちのなかには、息子さんやお孫さんが立派な著名人になっている方もいます。しかし、離婚後、混血の子供とも生き別れ、日系人専用の老人ホームでひっそり余生を過ごしている方もいます。
住所が判明した後、日本から手紙を出しても返事が来ないこともあります。年代的に80歳代になっている方が多いので認知症になっている方もいます。そうでなくても、彼女たちは意外と日本のテレビを見ていて、振り込み詐欺が横行していることを知っています。手紙が来ても詐欺ではないかと疑って、全く無視する方がいます。
以前あったケースでは、国際電話で老人ホームに電話した際、本人と話しをしてやっと信じてもらえたケースがありました。しかし、この方は、日本の親族にも恨みがあるようで、協力はしたくありませんと言われました。その場合は、経緯の報告書を作成し、日本の裁判所で不在者管理人の手続きを通すしかありません。私たちは、元戦争花嫁の子供や孫から日本の親戚の所在を調査するよう依頼されることも多くあります。悲しいことに所在が判明しても、前述したような戦争花嫁の差別感情から、日本の親族から門前払いされることもあります。戦争中にアメリカの攻撃で家族を失った方もいるので未だにその憎しみが残っているのかもしれません。
こうしたケースにあてはまる場合、背景事情も考慮して、最大の礼と敬意をつくして連絡を取られることをおすすめします。
参考文献
Daughters tell stories of ‘war brides’ despised back home and in the U.S. | The Japan Times
Three daughters of Japanese “war brides” plan to capture on film the struggles endured by this shunned and largely hidden immigrant group.