科学統計やIT技術とは縁遠い探偵業務の素行調査(尾行張り込み)のジャンルでも、アメリカでは調査員の資質を評価する為の指標が普及しつつあります。今回は、アメリカの保険調査専門の行動調査員の間で、浸透しつつあるビデオ比率という指標をご紹介します。
探偵調査員のセイバーメトリクス
アメリカの探偵業界では、素行調査における調査員の能力指標を計測する動きが始まっている。
Video Percentage Metrics, PI Advice
それは、「ビデオ比率」(Video Percentage Metrics)、という能力指標です。 この指標は、行動調査時間に対するビデオ撮影時間割合です。この指標のパーセンテージが70%を超えると優秀な調査員と評価されます。ビデオ比率が70%以上の調査員が最も優秀とされる。まず、日本のオーディエンスがこの指標の意味を理解するには、アメリカの探偵の主要業務である、保険受給者の行動調査について説明しなければなりません。
アメリカの保険調査
アメリカで行動調査の主流は、休業補償の保険請求についての確認調査です。保険会社が、保険請求者が本当に怪我や病気で仕事ができない状態なのかを調査するため、探偵業者を雇います。探偵調査員は、対象者が外出した時の姿をビデオ撮影することが。例えば、下半身の怪我で 車椅子でしか移動できないと深呼吸している 請求者がいたとします。探偵調査員が外出したところをビデオ撮影することを一番の目的とした行動調査を行います。
例えば、下半身の怪我で歩行が困難だと主張している対象者が、普通に歩行している状況を撮影できた場合、保険会社は保険金の支払いを拒否できます。通常、調査員は、対象者の自宅や勤務先の情報を得て、行動調査を開始します。しかし、調査開始時点で、対象者がそこにいるのかどうが問題です。無駄な調査をなるべく避ける為には、調査員は、公開情報のメディアサーチやプレテキスティング(Pretexting=覆面取材)等の調査方法を活用します。これで、居住確認、自宅や事務所での在籍確認等を行ってから調査したり、張り込んでも出てこない場合に、覆面取材で対象者がいるかどうか確認します。
日本の行動調査の業界では、こうしたメディアサーチや覆面取材の手法が発達していません。浮気調査が主流である為、調査会社が時間給を加算させる為に、あえて、探りをいれない場合もあります。また、取材調査を入れると、調査対象者が警戒し出す為、覆面取材のような手法は、行動調査で禁止されていたりします。
日米の行動調査の違い
- アメリカは保険詐欺調査が圧倒的に多い。従って、対象者が外出時の姿をビデオ撮影する事が主眼である。一方、日本は浮気調査が圧倒的に多い、従って、外出時の姿の確認は目的ではなく、男女が接触する現場を狙う
- アメリカは予算の都合で一人で行動調査を行うのが基本。一方、日本は2名以上で調査を行う事が常識化していて単価もつり上がっている
- アメリカの保険調査の業界では、VIDEO映像の長さが最も重視されている。動画が保険給付の根拠となる障害の程度を証明する。日本の行動帳では、男女が接触した時の証拠映像が鍵となる。従って、男女が接触するまでの間に行動調査が発覚すると意味がなく、決定的な現場以外では撮影を最小限に抑える。
アメリカの保険詐欺調査のポイント
- 対象者が外出する時間をいかに予測するか
- 外出したらいかに長くビデオ撮影するか
- 対象者が外出しない場合、在宅や外出時間を探る為の艤装取材(Pretexting)を行う
地理的条件
アメリカの大多数の地域では、車社会です。自宅周辺に駐車されている車両のナンバー照会で所有者を割り出せば、対象者がどの車両に乗車するかが事前にわかる。また、対象者が自宅から出て車両に乗るまでの間の映像を狙いやすい。
効率性と稼働時間
単なるビデオ比率だけの統計では、探偵の能力に誤差が発生しそうです。そこで、まず、この指標は6ヶ月間とか、1年間の期間で計測するよ必要があります。短期間での計測だと、運の悪いことが連続した場合、指標に誤算が発生します。長期間であれば、その中で、運が良い時や悪い時が混ざり、平均的な指標を算出しなすくなります。
例えば、会社が3日間(1日8時間)で24時間の調査契約を受けた場合、調査員が2日間16時間で完璧な結果を出したとする。そうすると、3日目の調査は行う必要がなく、別の調査に日程を割くことができる。これは非常に効率がよい。この場合、この調査員にクレジットポイントが加算される。例えば、8時間の調査予定だったが、調査員が対象者を4時間で見失った場合、稼働時間は4時間でストップする。追跡技術がより上手な調査員なら、8時間全てを稼働時間とすることができたかもしれな。この場合、この調査員のクレジットポイントが削減される。
日本の環境にあった能力指標
公共交通が発達した大都市や保険調査以外では、この計測方法はあてはめにくいです。自分は、人定写真の顔の角度と大きさを調査員の能力のひとつと考えています。また、電車移動中の携帯スクリーン観察の回数、会話の傍受、ゴミ収集、郵便物チェック、メディアサーチでの付加情報の収集等の要素に加点したいです。そうしたポイント稼ぎができる調査員を優秀と評価する指標を考案したいです。
野球でわかる日米の違い
裁判所、検察、警察、弁護士、に加え、探偵業など、法律に関連する業種は、国内問題に特化していることが多い。そのため、これらの職種は、他の国との比較や競争が発生しにくい業界です。ですから、こうした業界では、日本の法律・制度・習慣を他国の状況と比較する機会がめったになく、保守的な体質が強い。私たちが行う実地調査は、頭脳労働と肉体労働を合わせた活動です。そういう意味では、実地調査は、スポーツと共通点が多い。私は日本と外国の違いを比較する観点で、野球に注目しています。ベースボールは日米両方で人気のあるスポーツです。野球は日米両国で人気があります。ほぼ同じルールで協議されているが、様々な点で日米で違いが発生しています。
日米の野球の違いで一番にリストアップされるのは、パワーや体格の違いです。確かに、日米で平均身長や平均体重が違います。しかし、本質的に違うのは、私は、技術力だと思います。アメリカの方が、統計データや技術指標が圧倒的に進歩しています。
違いを細かくリストアップすれば、以下のようなものがあります。
- 少年たちへの指導方法
- リクルート方法
- 商業ベースでの報酬の違い
- トレーニング方法の違い
- 技術論の違い
- 統計データに基づく技術改革の違い
- チームワークの違い
- 試合数の違い
- ピッチャーの調整方法の違い
- バッティング技術論の違い
技術面の違いは、野球を練習している少年への指導方法に根ざします。少年野球の指導者に技術進歩の知識が無いと、旧態依然の間違った技術やトレーニング方法が伝統化してしまいます。特に大きく違うと思われるのは データ収集や統計データの活用方法である。セイバーメトリクスやアメリカ映画の「Monsy Ball」で紹介されているように、アメリカではデータ収集や統計分析に基づき、プレイヤーの能力指標やチームの戦術がどんどん進化しています。日本は、だいぶ遅れて、それらのノウハウを取り入れることになります。
常識や感覚的なものでは、技術革新は生まれません。 統計データを活用して初めてプレイヤーの価値を見出したり、チーム編成においてどのように選手をリクルートするか、新しいアイデアが生まれます。昔から言われていることですが、スポーツにおいては、アメリカは科学的分析が発達しています。一方、日本は精神論に基づいた行動原理が横行しています。これは、探偵業の調査方法にも同じことが言えるのです。
日本の行動調査は精神論に基づいている。
野球の話ですが、日米で、興行面、技術革新のスピード等に、大きく差が出ています。ドーピング問題等、マイナスの進化もありましたが、アメリカの方が、変化のスピードが早いことは間違いありません。チームプレイや細かい連携は、日本人が得意とするところです。そこは日本が独自に進化しているかもしれません。しかしながら、日本はいつも保守的で、精神論に基づいた トレーニングが主流であり、技術論やトレーニング方法等で、日本は立ち遅れています。
探偵業でも保守的にならず、どんどん変化していかなければならないと、あらためて実感します。