今回は、アメリカでの採用調査の実態と、日本との比較について解説をします。アメリカでは、訴訟歴、犯罪歴、運転履歴、信用情報、経歴確認、学歴確認、資格確認等を含めてバックグラウンドチェックと呼びます。狭義では、犯罪歴確認だけをバックグラウンドチェックと呼ぶ場合もあります。
差別につながる採用調査が禁止されているのは、アメリカも日本も同じです。しかし、日本では部落差別や思想信条の調査が禁止されていますが、アメリカでは、人種、性別、年齢、宗教、身体障害等の差別が厳格に禁止されています。アメリカでは、日本より、差別の適用概念が広く、ある意味、日本より差別に対しての意識が先鋭化しています。
アメリカでの一般的な採用調査
アメリカでは、経歴の確認等の他に、運転履歴、犯罪歴、信用情報(クレジットレポート)の確認が一般的です。
採用調査では、FTC(Fair Trading Committe = 公正取引委員会)で、以下が義務付けられています。
- 候補者本人から調査の承諾を得ること
- 調査結果を候補者にも開示すること
その前提ではありますが、犯罪歴、信用情報(融資枠、支払滞納等)等、日本では、本人からの承諾があっても取得することすら許可されていない情報を確認できます。
アメリカの犯罪歴情報(Criminal Records)
アメリカでは、犯歴情報は、ある程度採用が内定した後にしか実施してはいけません。また、逮捕はされたが、起訴されていない事件も、犯罪歴と解釈してはいけません。それと、犯歴を確認する期間は、おおよそ、過去7年間と決められています。
通常、候補者本人が、指紋採取カード(FD-258)を添付して、FBIに自身の犯罪歴情報の開示請求をします。FBIでのBackground Check(犯罪歴調査)では、氏名を改名する人物もいるので、指紋の提出が必要です。Japan PIでも、これに際しての、指紋採取の依頼が頻繁にあります。
(参考: FBI Identity Summary History )
アメリカの信用情報(Credit Report)
信用情報(Credit Report)の取得も、アメリカの採用調査ではよくある調査項目です。連邦法に基づき、Central Source LLVが運営する、Annual Credit Reportsというサイトで、オンラインの開示請求が可能です。このサイトは、EQUIFAX、TransUnionの、主要な信用情報データ会社が合同で運営しています。
採用候補者にこのサイトから、信用情報を自己開示させ、それを確認することも可能ですし、雇用者が、本人の承諾を得て、第三者機関として、信用情報を取得することも可能です。
日本では、採用目的での信用情報の利用が想定されていませんが、信用情報を候補者に自己開示させ、それを確認することは不可能ではありません。
日本の場合、信用情報の情報ソースが以下の3つあります。ソースが分散している形なので、3箇所で情報取得しないと、横断的な信用情報が確認できない状況です。
- 全銀協 https://www.zenginkyo.or.jp/ (銀行ローン系)
- CIC https://www.cic.co.jp/index.html (クレジット信販系)
- JICC https://www.jicc.co.jp/ (消費者金融系)
アメリカでのSNS調査の規制
アメリカの法律は、SNSアカウントを見ること自体を禁止しているとということではありません。候補者にログイン情報を求めたり、仕事の能力や適性と関係ない、性別、年齢、人種、宗教、飲酒癖等を、採用判断に使うことを禁止しています。
以前、アメリカで、採用候補者にソーシャルアカウントのログイン情報まで申告させ、非公開情報や裏垢までチェックするという風潮がありました。その反動で、ログイン情報を申告させることが禁止されました。
また、アメリカでは、性差別、年齢差別、人種差別、宗教差別などに対する規制が日本より厳格なため、そうした情報を採用判断に使用することが禁止されています。SNSの投稿等を確認すれば、そうした情報も事前に確認できますが、本人の能力や適正とは、無関係なそうした情報だけを元に採用判断をしてはいけないということです。差別があれば、EEOC (The Equal Employment Opportunity Commission = 雇用機会均等委員会)に訴えられ、処罰を受けます。
まとめ
アメリカでは、採用の内定がほぼ決まってから、入念なバックグラウンドチェックを行うのが普通です。きちんとしたバックグラウンドチェックをせずに、不適切な人材を採用してしまった時に、いい加減な採用(Negligent Hiring)をしたとして、経営者の責任を問われる可能性があるからです。
その意味では、法令でどのような調査が許可されているか、どのような調査方法が望ましいか、指針がはっきり決まっています。人種、性別、年齢、宗教、身体障害等での差別は厳格に禁止されている一方、その人材の適正や能力と過去のネガティブな履歴に関しては、徹底して調査することが奨励されています。過去のネガティブ記録は、差別ということではなく、適正に関する重要なチェック項目であるというコンセプトが根底にあります。
それと比較すると、日本では、過去のネガティブレコードをチェックすることが、差別につながるという発想があるように感じます。前科のある人を更生させるには、就職先の確保が重要なことは言うまでもありません。ただし、前科のある人が、社会的責任の重い職種で無条件に採用されていかというと、疑問のある人も多いでしょう。
いずれにしても、採用調査の世界では、他国での実情について、メディアで報道されることがほとんどありません。これからも、具体的な他国の実情を伝えていくことが、我々の使命だと考えます。Japan PIでも、採用調査を承っております。
参考
FTC (Fair Trading Committe=公正取引委員会)
The Fair Credit Reporting Act & social media: What businesses should know
Background Check
https://www.consumer.ftc.gov/articles/0157-background-checks
EEOC (The Equal Employment Opportunity Commission = 雇用機械均等委員会)
Background Checks: What Employers Need to Know
https://www.eeoc.gov/laws/guidance/background-checks-what-employers-need-know