2024年9月、WAD主催セミナーへの参加報告

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2024年9月末、私達は世界探偵協会(WAD:World Association of Detectives)が主催するセミナーに参加するため、マレーシアのクアラルンプールを訪れました。このセミナーは、世界各国から調査業や警備業の専門家が一堂に会し、最新の技術や業界の動向、法規制の現状などについて情報交換を行う場として開催されました。私はこの機会を通じて、国際的な調査業界の現状を深く理解し、日本の業界が直面する課題や今後の可能性について考えることができました。

セミナーの概要

セミナーは2日間にわたり、合計8つのプログラムが実施されました。主要なトピックとしては、人工知能(AI)、ドローン技術、暗号資産の調査、調査業に関連するデータベースやアプリケーションの最新技術、そして増加するオンライン詐欺への対応策などが取り上げられました。

特に、世界的に増加傾向にあるオンライン詐欺、例えば投資詐欺やロマンス詐欺などへの対策については、多くの時間が割かれ、参加者同士の活発な議論が行われました。

国際的な調査業と警備業の視点

日本では、探偵業と警備業は法律上も明確に区別され、それぞれが独立した業種として認識されています。しかし、他国に目を向けると、その区別が曖昧である場合が多いことに気づかされました。多くの国では、退役軍人や退職した警察官がその経験とスキルを活かして調査業に従事しており、そのため調査業と警備業の業務範囲が重なる傾向があります。

セミナーのプログラムでも、セキュリティに関する内容が全体の半数を占めており、国際的には両業種が密接に関連していることが伺えました。このような背景から、世界の調査業界では警備業との連携が重要視されていることを実感しました。

セミナーでの主要な発表内容

人工知能(AI)の活用

セミナーでは、AI技術の進歩とその調査業・警備業への応用について、多くの時間が割かれました。

医療分野のセキュリティコンサルタントによる講演では、医療データの保護にAIがどのように活用されているかが紹介されました。具体的には、AIを用いて不正アクセスを検知し、患者情報の漏洩を防ぐシステムの開発や運用について詳しく説明がありました。医療データは非常に機密性が高く、その保護は社会的にも重要な課題であるため、AIの導入は大きな意義を持つと感じました。

また、MicrosoftでAIを活用したセキュリティシステムを開発しているエンジニアからは、企業の情報セキュリティにおける最新の技術動向が共有されました。AIがサイバー攻撃のパターンを学習し、リアルタイムで脅威を検知・対処する仕組みについての説明は、非常に興味深いものでした。これらの技術は、調査業や警備業においても大いに応用可能であり、業務の効率化と精度向上に寄与すると感じました。

暗号資産の調査手法

暗号資産(仮想通貨)がマネーロンダリングや詐欺の手段として利用されるケースが増えており、その調査手法についてのセミナーも開催されました。講師からは、ブロックチェーン技術の基本的な仕組みから、暗号資産の取引履歴を追跡するための専門的なツールや方法論が紹介されました。

特に、資産隠匿や債権回収の場面で暗号資産がどのように関与するか、そしてそれに対する調査アプローチについて、具体的な事例を交えて説明がありました。暗号資産は匿名性が高く、従来の金融資産とは異なる特徴を持つため、その調査には高度な専門知識と技術が必要であることを再認識しました。

ドローン技術の応用

技術の進歩により、ドローンが調査業務において重要なツールとなっています。アメリカ・カリフォルニア州の法律事務所に所属する調査員は、最新のドローンを使用して交通事故現場を撮影するデモンストレーションを行いました。

高速道路から車両が落下した事故現場を再現し、ドローンを活用することで従来の徒歩による調査では得られない視点からの映像を取得できることが示されました。ドローンの操縦には資格取得と飛行許可が必要であり、それらを適切に取得することで他の調査員との差別化が図れる点も強調されました。

セキュリティ業界の最新情報

セキュリティの観点から、各国の警備体制の違いや地域情勢、ネット上の脅威情報へのアクセス方法や考え方に関するセミナーも行われました。情報収集が警備業において不可欠であり、調査業のノウハウが重要な役割を果たすことが再確認されました。

私は主に調査業を専門としているため、警備業に関する知識は限られていましたが、このセミナーを通じて警備業における情報収集の重要性と、調査業との連携の可能性について理解を深めることができました。

探偵業の現状と法規制に関するパネルディスカッション

セミナーの中でも特に印象的だったのは、探偵業の現状と法規制についてのパネルディスカッションでした。イギリス、アメリカ、インド、日本、コロンビアの代表者が参加し、各国の探偵業の状況や課題について活発な議論が交わされました。

探偵業は特殊な業界であり、医師や弁護士のように全ての国や地域でライセンス制度が確立されているわけではありません。例えば、アメリカではほとんどの州でライセンス制度が導入されていますが、全ての州で義務付けられているわけではありません。ヨーロッパでも、国によって制度が異なり、イギリスやドイツではライセンス制度が存在しない一方、多くの国では導入されています。

このように、探偵業の法的な位置づけや社会的な認知度は国によって大きく異なります。パネルディスカッションでは、各国の代表者が自国の状況を共有し、国際的な課題や今後の方向性について意見を交換しました。

WADの組織構成と課題

WADという組織自体が英語を共通言語としているため、非英語圏のメンバーが少ない現状があります。また、アラブ・中東のイスラム圏やアフリカ、東南アジアの発展途上国からの参加者もほとんど見受けられません。これは、社会情勢が未成熟または不安定な地域では、探偵業や調査業の社会的ニーズが存在せず、職業自体が未成熟であることが原因と考えられます。

このような背景から、WADの理事や主要なメンバーはアメリカ、カナダ、イギリス、オーストラリア、インドなどの英語圏の出身者が中心となっています。ヨーロッパ諸国や南米の出身者も若干混じっていますが、全体として西側諸国の影響が強い組織となっています。

日本の探偵業界の現状と課題

情報アクセスの制限

日本では、政府が管理するデータへのアクセスが厳しく制限されており、調査業務において必要な情報の取得が困難な状況です。これは、中央集権的な統治体制が影響していると考えられます。

例えば、日本の法人登記では株式会社であっても株主の情報が登記簿に記載されておらず、実質支配者/最終受益者(UBO)の特定が困難です。これは、マネーロンダリングや犯罪収益に関連する調査を行う上で大きな障壁となっています。

ライセンス制度の欠如と社会的認知度

日本では探偵業が2007年に登録制となったものの、ライセンス制度は導入されていません。そのため、探偵業の社会的な信用度は低く、警察との連携も希薄です。退職した警察官や軍人が探偵業に参入するケースも少なく、業務の幅が限られています。

さらに、探偵業が扱う業務も浮気調査など、社会的に重要度の低いジャンルに偏っており、生命や財産に直接関わる業務が少ない現状です。これにより、探偵業の社会的な重要性が低く見られがちであり、業界全体の発展を阻害する要因となっています。

海外の事例から見る業界の可能性

海外、特に英語圏の国々では、探偵業やその関連職種にライセンス制度が導入されており、行政業務の一部が民間に委託されています。

例えば、バウンティ・ハンター(賞金稼ぎ)は保釈中に逃亡した被疑者を追跡する職業であり、プロセス・サーバーは裁判所の書類送達を代行します。レポゼッション・エージェントはローン支払いが滞った車両を差し押さえる業務を行い、デット・コレクターは債務者の資産調査や督促、差し押さえなどを担当します。

これらの職種はプライベート・インベスティゲーターの下位資格として位置付けられ、プライベートインベスティゲーターのライセンスがあれば、関連する業務を包括的に行うことができます。行政業務の民間委託が進んでいることで、探偵業者の社会的地位が向上し、警察や司法機関との連携も密接になっています。

日本の調査業界の未来と展望

行政業務の民間委託とライセンス制度の導入

日本でも、行政業務の民間委託を進めることで、探偵業者の社会的地位を向上させ、ライセンス制度の導入につなげることが重要だと感じました。これにより、警察や裁判所等の行政機関との連携が強化され、情報アクセスも改善されるでしょう。

業務範囲の拡大と専門性の向上

ライセンス制度の導入により、探偵業者が扱う業務の幅を広げ、社会的に重要な案件に携わる機会を増やすことが期待されます。例えば、刑事弁護調査や行政の調査業務の民間委託など、専門性の高い分野での活躍が可能となります。

社会的認知度の向上

探偵業者自身が高い倫理観を持ち、プロフェッショナルとしての意識を高めることで、社会からの信頼を得ることができます。業界全体での取り組みが重要であり、一般の方々に探偵業の社会的意義や重要性を理解してもらうための努力が必要です。

結論

今回のセミナー参加を通じて、国際的な調査業界の現状や、日本との大きな違いを改めて実感しました。日本の調査業界は、社会的認知度や法的整備、業務範囲の狭さなど、様々な課題に直面しています。しかし、海外の事例から学ぶことで、業界の発展につながる具体的な道筋が見えてきます。

私たち探偵業に従事する者として、社会の歪みを正す重要な役割を担っているという自覚を持ち、よりプロフェッショナルなサービス提供に努める必要があります。業界全体の発展に寄与し、社会的に認められる職業としての地位を確立するために、今後も知見を広げていきたいと思います。

今後の展望とアクションプラン

ライセンス制度の推進

行政改革の一環として、業務の民間委託の推進が喫緊の課題です。探偵業は、行政機関が行う調査関連業務の民間委託先として、今後ますます重要な役割を担うことが期待されます。このような背景から、探偵業のライセンス制度導入の必要性を強く訴え、業界全体でその推進に取り組むべきです。これにより、業界の信頼性を高め、社会からの信頼を獲得することが可能となります。

社会的認知度の向上

一般の方々に向けて、探偵業の社会的意義や重要性を発信し、理解を深めていただくための広報活動を行います。セミナーや講演会、メディアを通じた情報発信を積極的に展開します。

技術研修の強化

AIやドローン、暗号資産の調査手法など、最新の技術や知識の習得に努めます。これにより、サービスの質を向上させ、お客様のニーズに的確に応えることができます。

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