この記事では、反市場勢力や半グレの意味と定義、実際にあった事件の実例を解説していきます。自社や取引先と反社会的勢力(反市場勢力)の繋がりを調査したい場合、反社チェックの調査ページをご覧ください。
反市場勢力とは何か?
反市場勢力とは、株式市場で不正な取引を行い、違法な手段で利益を得る勢力です。具体的には、不正ファイナンス、株価操縦、インサイダー取引をする仕手筋、アレンジャー、金融ブローカー等です。過去にこのような事件で逮捕歴がある人物は、反市場勢力として、金融庁・証券取引所・証券会社等でブラックリスト登録されています。
ちなみに、ホリエモンこと堀江貴文氏も、ライブドア事件のせいで、反市場勢力扱いとなっていると言われています。
反市場勢力の典型的な活動
不正ファイナンスのスキームでは、反市場勢力は、グループで活動します。指南役、実行部隊、金融ブローカー、金主がグループの主要なメンバーとなります。典型的なスキームは、経営不振の上場企業を、不正ファイナンスで操り、株価操縦で株売却益を獲得するというものです。
通常は、以下の手順で株価操縦を行うとされています。
- 経営不振の上場企業に取り入る
- 第三者割当増資で上場基準を維持させる
- 経営権を掌握し、株価操縦で売り抜く
経営不振の上場企業には、株価が大暴落や債務超過で、上場廃止基準に抵触する可能性が高まります。経営者は、上場維持のため、第三者割当増資をするしかありません。そこに反市場勢力の指南役が取り入り、ハコ企業(不正ファイナンスの舞台の会社)化して、食い物にします。
新会社やタックスヘブンのSPC(Special Purpose Company = 特定目的会社)で第三者割当増資を行ったり、ハコ企業に役員を送り込んだりして、営権掌握の画策をするパターンもあります。
反市場勢力の稼ぎ方
反市場勢力は、ハコ企業に対して架空増資(見せ金増資)や不動産を過大評価した現物出資等の不正ファイナンスを行い、新株を取得します。
そして、第三者割当増資のIR情報を開示して、株価を吊り上げます。こうして、元々でたらめな方法で安く取得した株式を高く売り抜けるわけです。このやり方で、反市場勢力は荒稼ぎしています。
反社会勢力とのつながり
反市場勢力は、暴力団の構成員や半グレではありません。しかし、詐欺師を反社会勢力と呼ぶなら、その意味では反社と分類されます。このあたりは、用語の定義の問題になるため、明確な線引が難しくなります。
ただし、反市勢力は、スキームの金主(出資者・資金提供者)として、マネーロンダリングへの協力者として、暴力団や特殊詐欺グループと連携する可能性もあります。反市場勢力は、元々上場企業や株式相場での不正行為を資金源とする闇紳士(知能犯)です。一方、暴力団や半グレは元々暴力を基礎とした武闘派集団です。しかし、暴力団も半グレも、闇金や特殊詐欺を主要な資金源として、武闘派から闇紳士化している側面もあります。その意味で、反市場勢力と反社会勢力のボーダーがあいまいになっています。
たとえば、前述したホリエモンこと堀江貴文氏も、ライブドア事件の時には、ライブドア関係者が暴力団関係者と密接なつながりがあると報道されていました。しかし実際には、それが本当だったかどうかははっきりしません。
反市場勢力の事例
反市場勢力の実態について、具体的な事例を2つ紹介します。反市場勢力は、知能犯です。ですから、元々優秀なベンチャー起業家が、転落し、反市場勢力に転身した実例が多数あります。そうでないにしろ、企業経営や証券業界、会計制度などに精通した頭脳派の人物が、反市場活動に従事しています。
事例1)闇紳士になったベンチャーの星
2019年5月に、反市場勢力の黒木正博氏が、虚偽の決算書による銀行融資詐欺容疑で逮捕されました。彼は、実質的支配下にあった室内装飾品販売会社のラポールで、約20の金融機関から、20数億円の融資を受け、そのうち約8億円を私的財産に流用し、同社を破産させました。
黒木氏は、1999年12月に、音楽配信サービスのリキッドオーディオジャパン社を東証マザーズの第一号の上場企業にさせた、ベンチャーの星でした。元々は、慶応大学卒のエリートです。当時は、人気絶頂のミュージシャンが同社の広告塔となった盛大な上場パーティが開催され、大々的に宣伝されました。
しかし、実際には、芸能界の帝王であるバーニングプロダクションの周防郁雄や、イトマン事件の主犯の闇紳士である伊藤寿永光がバックについていました。闇紳士達は、リキッド社の株価を釣り上げ、売り抜ける悪巧みをしていました。黒木氏のリキッド社は、そのハコ企業として利用されていました。実は、黒木氏の共同経営者であった大神田正文氏が、すでに別事業の失敗で反社会勢力に多額の借金があり、闇紳士達の奴隷となっていました。
2000年10月には、黒木氏の共同経営社であった大神田正文氏がリキッド社の役員の逮捕監禁罪で逮捕されました。大神田氏は、東京大学工学部出身の学生企業家でしたが、不動産事業に失敗し、反社会勢力のフロント企業で働かされていた過去がありました。リキッド社の役員のその秘密がバレたため、大神田氏は反社会勢力に依頼し、リキッド社の役員を襲撃させたのです。
そうしたことで、リキッド社は崩壊しました。黒木氏もその影響を受け、他の事業を倒産させ、闇紳士へと転身しました。よくあることですが、事業の失敗をきっかけに、倒産屋や整理屋などの闇紳士と交流ができます。そして、自身の倒産経験を生かし、倒産した企業家自身が、闇紳士に転身するというわけです。
闇紳士に転身してからの暗躍
2008年10月、闇紳士に転身したのちの黒木氏は、実質的に支配していたジャスダックの上場企業である、情報通信業のトランスデジタル社の民事再生法違反容疑で逮捕されました。この時、黒木氏は、山口組系の暴力団の金主から資金を得て、トランス社に資金注入して、経営権を掌握しました。そして、元自衛官を役員に送り込み、防衛族の政治家を招いた盛大なパーティーを開催しました。
宣伝効果で株価が上昇したところで、トランス社は新株予約権を発行し、31億円を投資家から調達しました。その直後、トランス社は民事再生法を適用し、倒産しました。
黒木氏は、山口組系の金融業者への返済を優先していたため、民事再生法違反(特定の債権者に担保提供)で逮捕されたのです。このように、ベンチャーの星は、反社会勢力の共生者に転身しました。そして、経営実態のないハコ企業(業績不審で乗っ取られた上場企業)を操作して、不正な資金獲得を企む典型的な反市場勢力になったのです。
事例2)ハコ企業に群がる闇紳士
2017年10月、東証マザーズ上場のPCネット通販会社、ストリームの金融商品取引法違反(相場操縦)容疑で、仕手筋や金融ブローカーなど6人が逮捕されました。創業者の中国人社長(劉海涛氏)も、業績が悪化した時点で、株価吊り上げの不正取引の共謀者となっていました。
ストリーム事件におけるスキーム
- 仕手筋のドンの松浦大介氏が経営不振のストリームに貸付し、ハコ企業化
- 仕手筋のドンの松浦大助グループとその子分(松浦正親氏、佐戸康高氏、四方啓二氏)が、ストリーム株を担保に金融ブローカーグループに仕手資金を貸し付け
- 金融ブローカーグループの仕手筋(高橋利典氏、笹尾明孝氏、本多俊郎氏)が、株価吊り上げ売買を担当
- ハコ企業関係者がストリーム株価野吊り上げに成功し、不正利益を獲得
尚、逮捕された、松浦正親氏、佐戸康高氏、四方啓二氏、高橋利典氏、笹尾明孝氏、本多俊郎氏の6名のうち、高橋氏、笹尾氏、佐戸氏のみが起訴されました。劉海涛氏は、逮捕状が出て中国に逃亡した模様です。
ストリーム事件に登場した反市場勢力の略歴
松浦大助氏
大物闇紳士の朝堂院大覚氏(本名・松浦良右)の息子で、闇帝王学を学んだ、闇紳士会のサラブレッドです。闇取引の表には出す、裏から子分たちを動かして活動していました。しかし、2020年9月にIR汚職事件の証人買収事件に関与したことで、逮捕されました。
松浦正親氏
大分県のタクシー会社経営を経て、松浦大助グループに参加。同じ松浦姓ですが、松浦大助氏の親族ではありません。
佐戸康高氏
山一證券出身で、シンガポール在住でした。和牛預託商法で一般投資家から巨額の出資金を集め2011年に破綻した安愚楽牧場の常務執行役員に就任していました。
四方啓二氏
松浦大助氏の父である朝堂院大覚氏の政治団体「法曹政治連盟」で修業した、闇紳士業界の叩き上げです。
高橋利典氏
2011年の井上工業架空増資事件で、新株を暴力団に横流ししたブローカーです。
笹尾明孝氏
2006年、日本LSIカード特別背任事件の主犯として暗躍しました。
本多俊郎氏
大物仕手筋の西田晴夫氏の側近として、仕手筋の修行を積んだ金融ブローカーです。井上工業、NFK、クオンツの仕手で暗躍しました。
劉海涛氏
中国安徽省出身で、日本でEC通販サイトのストリームをマザーズに上場させた創業者です。しかし、業績が悪化し、自らも闇紳士に転身しました。仕手筋に魂を売って、ストリームが不正につり上がったタイミングで株を売却し、逃亡しました。
仕手筋の主要な手口
1)買い上がり
直近の株価を上回る価格で連続して注文を出し、株価が上昇しているように見せかける
2)仮装売買
同一人物が「売り」と「買い」注文を繰り返し、活発に取引が行われているように装う
まとめ
反市場勢力は、業績不振の上場企業に寄生して、不正ファイナンスや株価操縦で不正利得を得ることを目的に活動する闇紳士たちです。肩書としては、金融ブローカー、経営コンサルタント、仕手筋、相場師等と呼ばれます。裏稼業ではありますが、金融・経営・証券に関する深い知識と実務ノウハウを備えた職能者です。
実務を遂行するには、グループでの活動が必要であり、更に、巨額の活動資金が必要です。人材リクルートの面では、経営破綻した大物ベンチャー社長などを仲間に引き入れるケースがあります。また、巨額の活動資金の金主として、暴力団や特殊詐欺グループの半グレなどの資金を利用することも多々あります。
反市場勢力の首領格は、資金力もありますから、自らが表に出ず、グループ参加の人員に実務を担当させます。今回の記事で取り上げた反市場勢力も、一度、このように逮捕報道が出てしまえば、次の経済事件では自らは表に出に出ません。しかし、また、別人材をリクルートして、目立たないように別事件の影で暗躍するものと思われます。