銃に関連した死亡事件は、世界中で増加傾向にあります。2019年だけで、銃器によって亡くなった人口は世界中で25万人以上にも及び、そのうち約71%は殺人、約21%は自殺、8%は意図しない銃器関連の事故でした。
世界中で銃に関連する事件が随時発生していますが、中には銃所持を違法としている国も多くあります。2019年に世界中で起きた推定250,227人の銃関連の死亡者のうち、65.9%がブラジル、アメリカ、ベネズエラ、メキシコ、インド、コロンビアの6か国で発生していました。民間の銃の保有率が世界で最も高い国の一つであるアメリカでは、保有率に比例するように、銃による死亡数も高い数字となっています。
日本では銃撃事件はあまり聞かないものの、安倍元首相銃撃事件は国民に大きな衝撃を与えたことは記憶に新しいところです。日本を含むその他の国の実情はどのようになっているのでしょうか?
拳銃所持率が最も高い国・低い国は?
下図は、世界216カ国の国々における、人口100人あたりの拳銃所持率をマップにしたものです。色が濃ければ濃いほど拳銃所持率は高く、薄ければ薄いほど所持率は低くなっています。
マップ上には、拳銃所持率が最も多い国トップ5(アメリカ、フォークランド諸島、イエメン、ニューカレドニア、セルビア)、マップ下には拳銃所持率が最も低い国トップ5(東ティモール、韓国、ソロモン諸島、台湾、インドネシア)および日本が示されています。日本は「拳銃所持率が最も低い国」第10位にランクインしています。
2017年のスモール・アームズ・サーベイによると、世界では8億5000万人以上の一般人が銃を所有しているとされています。中でも、アメリカにおける民間の銃の保有率は世界一であり、世界で最も簡単に銃を入手できる国として知られています。
対して日本は、人口100人あたりの銃の保有数ランキングでは世界219位と、ほとんど普及していないことがわかります。それだけに、日本では銃は身近な物ではなく、危険な物だという認識もあまりされていません。アメリカや、その他の国々の拳銃事情はどのような状況なのでしょうか?特徴的な拳銃事情のある国を中心に見てみましょう。
アメリカの拳銃事情
アメリカの人口100人あたりの銃の保有数は世界一で、最も容易に民間人が銃を所持できる国です。登録の有無に関わらず、アメリカ国内の銃の数は世界中に存在する銃の数の4%に相当し、その数はアメリカ国内の人口数を上回る銃器大国なのです。
銃器大国であるが故に、銃による事件が常に多発している国でもあり、社会問題となっています。人口よりも銃の数が多い国では、他の国々と比較して銃の死亡率が高いという統計もあり、まさにアメリカ社会を象徴するようなデータです。
しかし、世界中のどの国々よりも銃乱射事件が発生する頻度も高いのにも関わらず、銃規制法の整備は世界の中でも最も弱い状況にあります。長年銃規制法について議論されているのにも関わらず、未だに整備されていないのです。
イエメンの拳銃事情
中東のイエメンも、世界の国々と比較して銃の所有率が最も高い国の一つとして長年上位にランクインしている国です。2017年のスモール・アームズ・サーベイの人口100人あたりの銃の保有数ランキングでも世界第3位となっています。
イエメンにおける銃の保有率の高さの最大の理由は、長年紛争が続いているなど、国内情勢が安定していないことにあります。そのような背景から、一人あたりの所有している銃の数が最も多い国なのです。
個人の銃の所有数が多いことからわかるように、市場でも用意に銃器が売られています。国内のあらゆる都市で銃を所持している人がおり、その中には多くの民間人も含まれます。治安の安定しない国内では、民間人が自分自身の安全を守るべく銃を保持しなければならない状況にあるのです。
チェコ共和国の拳銃事情
チェコの人口100人あたりの銃の保有数は多くないものの、世界の中でも銃の所持に関する法律が寛大な国の一つです。チェコは比較的治安の安定した国であり、テロ事件の発生率も低い国なのですが、テロリストを撃つ権利が憲法で認められています。
チェコの国民であれば、銃の入手も非常に簡単です。日常での保持についても寛大で、銃の登録は義務付けられているものの、自衛のためなら使用も許可されています。
スイスの拳銃事情
スイスも国民の銃所持率が非常に高い国で、連邦国防省の調べでは、人口830万人に対し個人所有の銃は推定200万丁だと報告されています。しかし、犯罪発生率については減少傾向にあり、治安が安定しているのにも関わらず銃の数は増加傾向にあると言われています。実際、2016年では銃による殺人事件が47件発生したものの、国全体での銃による死亡率はほぼありませんでした。
その理由には、スイスが永世中立国であることが挙げられます。永世中立国で国民皆兵制を採用していることから、兵士の銃はそれぞれの自宅で保管されているのです。そのような背景から、スイスでは独自の銃文化が発展してきたと言えます。
銃器に関する法律が最も厳しい国
銃器に関する法律が最も厳しい国は、中国、インド、シンガポール、ベトナムで、日本も厳しい国の一つです。台湾とインドネシアは銃の所有率が世界で最も低く、100人あたりの民間銃器はほぼゼロとなっていますが、銃そのものは禁止されていません。
台湾では、一部の銃器のみが許可されており、全ての銃器の保有者には身元調査とライセンスが求められます。インドネシアでは、銃器はインドネシア国家警察の武器担当官によってのみ取り扱い、販売が管理されています。インドネシアの法律では、身元調査の結果、テロ組織などとのつながりがないことや特別な資格が必要とされ、銃器安全クラスを修了することが求められます。
日本の銃情勢
日本は世界でも銃器を規制する法律が最も厳しい国の一つです。国民のほとんどが銃を保持することなく、発砲事件なども暴力団が関与しないものはほぼありません。しかし、それだけ厳しく取り締まられているのにも関わらず、銃器による事件が起こるのはなぜなのでしょうか?国内における銃事情を見てみましょう。
厳しい銃規制法のある日本の拳銃事情
下のインフォグラフィックは、2021年の日本の拳銃事件の統計をまとめたものです。
世界で最も厳しい銃規制法がある日本でも、稀に発砲事件が起こっています。最近だと、安倍晋三元首相が銃撃される事件が起きたばかりです。しかし、死亡数はごく少数で、警視庁のデータによると、令和3年の死亡者数は1人に留まっています。
出典:警視庁「日本の銃器情勢(令和3年版)」
日本の銃規制法では、猟銃と空気銃のみ販売が許可されており、拳銃は違法です。しかも、入手も困難で、複雑な手続きが必要とされるだけでなく、講習や試験、厳格な検査なども行われ、長い時間が費やされることになります。入手した銃は警察に登録し、銃と銃弾もそれぞれ別の場所で保管せねばならず、その場所も届け出が必要になります。
こうした厳しい規制により、日本では銃所有者は極めて少ない状況にあり、発砲事件の発生も抑えられているのです。
様々な日本への密輸ルート
日本国内で犯罪に使用される銃のほとんどが外国製で、海外から密輸されたものです。押収された銃の製造国は、主にアメリカ、フィリピン、中国で、2000年以降はロシア製の銃も増加傾向にあります。密輸の検挙数自体は減少傾向にあるものの、手段は巧妙化してきています。
出典:警視庁「日本の銃器情勢(令和3年版)」
日本から比較的近いこともあり、フィリピンルートでは日本人の暴力団関係者が直接現地に赴き持ち帰る方法が一般的です。運搬手段は船舶がメインでしたが、近年では航空機も増えています。フィリピンルートの場合には、フィリピン製の銃器中心ですが、アメリカ製、ヨーロッパ製、南米製の物も増えてきています。
銃器の数が多く容易に手に入れられることから、アメリカルートからの密輸も多い状況です。アメリカの場合にも日本人が現地に行き、現地から国際郵便を使って郵送する方法が中心となっています。
出典:警視庁「日本の銃器情勢(令和3年版)」
近年増えているロシア極東ルートでは、北陸や北海道の暴力団との連携により密輸されるパターンが大半を占めています。2013年に押収した銃器は105丁で、これは同年の真正拳銃の押収量の12.3%を占めています。
中国ルートでは、近年問題になっている密入国者の増加に伴って銃器の密輸も増えています。密入国者によって日本に運ばれているのです。
その他のルートでは、南米ルートや南アフリカルートがあります。これには遠洋漁業に従事している日本人の船員が関わっているパターンが多く見られ、現地で調達した銃器を漁船を利用して日本に運ばれてくるのです。
インターネットでの闇取引も
日本で起こる発砲事件のほとんどが暴力団による抗争事件であり、暴力団関係者による密輸が銃器の入手手段の中心であることに変わりはありません。しかし、直近の国内の銃器情勢によると、2021年の拳銃の押収数が295丁で、このうち暴力団関係者による管理下の物は31丁しか認められませんでした。つまり、銃器の入手が困難な国内において、264丁もの拳銃が暴力団の管理以外の出所不明なものとして押収されたのです。割合としては、毎年70%以上、2021年は89.5%が暴力団の管理以外のところで押収されていることになります。
出典:警視庁「日本の銃器情勢(令和3年版)」
このような事実から考えられるのが、インターネットでの闇取引です。実際、2021年のインターネットのオークションサイトや掲示板等を端緒として押収された銃器の数は36丁にものぼったのです。2019年には、54丁もの銃器がインターネット関連で押収されました。
一般のオークションサイトや掲示板などは誰もが簡単に閲覧できることから、検挙の確率も非常に高いものですが、最近では『ダークウェブ』と呼ばれる闇サイト経由での取引が問題視されています。『ダークウェブ』とは、一般的に利用されているインターネットとは違い、高度に暗号化された匿名性の高い仮想空間であり、一般の検索エンジンでは見つけることができません。そのため、銃器の入手ルートや販売している人物の特定が難しいとされています。
『ダークウェブ』の取引では、個人情報を照会しやすいクレジットカードは使われません。決済は仮想通貨が使われることがほとんどで、ビットコインなどは個人を特定しやすいため、モネロなどの匿名性の高い仮想通貨が使われます。仮想通貨の普及に伴い、一般人によるインターネットでの危険物の闇取引も可能なものとなってきている現実があります。さらに、物によっては10万円ほどの安価な銃器も取り扱われているとあれば、一般人にとって銃器入手のハードルはそれだけ下がることになります。
拳銃抑止の反動
上記のデータで見てきたように、拳銃の流通を抑止すれば、強盗・殺人事件・自殺の件数を抑止できます。一方で、窃盗、詐欺、等の、非暴力的な犯罪者が、身の危険を感じず、安心して犯行を犯しやすい社会環境となります。
空き巣狙いの窃盗犯や詐欺の受け子等からすれば、被害者宅で不審がられても、銃で反撃される怖さがありません。また、拳銃規制のおかげで、日本では、武装警備員が常駐したり、厳重なシャッターがある居宅や建物がほとんどありません。現在はコロナ禍で抑止されていますが、中南米やアジアの窃盗グループが、それにつけ込んで、日本へ進出してくる事例が後を絶ちませんでした。
更に、拳銃の抑止が、日本国内の暴力団や海外マフィアの闇マーケットをはびこらせている側面もあります。このように、厳しい拳銃規制が一貫して犯罪の抑止に繋がるかと言われると、そうとは言い切れないのです。
まとめ
銃器の規制が厳しく入手が困難な日本でも、もしかしたら銃器は一般人との距離を縮めてきているのかもしれません。押収件数や発砲事件数は減少していますが、銃器が市場に出回るルートや手段が巧妙化しているのも事実です。
また、海外の渡航時には、拳銃規制の度合を把握することが重要です。拳銃が流通している国では、無意識でも、不法侵入や不審行動をすると銃撃を受ける可能性があります。私達探偵業者も、海外で活動する場合、その国の銃規制の状況を確認し、慎重に活動しなければいけません。
ある日犯罪に巻き込まれ、これまでの日常が一変してしまったなんていうことがないよう、正しい知識を身に着けながら危険を遠ざける行動が求められます。
なお、Japan PIでは、反社会的勢力との繋がりを調査する反社チェックを承っております。事態が大きくなる前に、リスク回避は調査のプロにお任せください。
出典
World Population Review「Gun Ownership by Country 2022
abcNews「What other countries show us about America’s gun violence epidemic」
Shoko-Ranking「世界の銃所持率ランキング~進まないアメリカの銃規制~」
CBC「Countries with the most guns list has some surprises」
カラパイア「1位はやはりあの国。一般人が簡単に銃を所持できる国トップ10」
CNN「How US gun culture compares with the world」
Wikipedia「Small Arms Survey American gun ownership」
The Economist「Yemen tries gun control」
swissinfo.ch「犯罪は減少するもスイス人の銃所持率は増加」