M&Aはビジネス取引の中でも大きな金額が動くため、デューデリジェンスに関しても事前に詳細な調査が必要とされます。M&Aを行う際のリスクと、デューデリジェンスによってどのように対応することができるのかまとめています。
デューデリジェンスとは何か
デューデリジェンスとは、企業との取引、M&A、あるいは投融資の契約締結の前に、顧客企業や、潜在的な買収者、または、投資家が行うビジネスの包括的な評価の為の分析や調査を指します。デューデリジェンスのプロセスで、具体的には対象法人の資産と負債、組織構造、業務内容、取引先等を確認する必要があります。
デューデリジェンスの結果により、取引における商業的な発展性や契約締結後の効果を適切に評価し、合併または買収の価格が正しく設定されているかどうか、確認することができます。 同時に、販売側の企業のオーナーは、開示すべき情報や書類を、買収者や投資家に提供する必要があります。デューデリジェンスは、企業間の取引、M&A、投資のプロセスの中で、非常に重要なステップだと言えるでしょう。
M&Aにおけるデューデリジェンスとは
投融資におけるデューデリジェンスとは内容が異なるのはもちろん、全てのM&A取引で、同一のデューデリジェンスを行うわけではありません。個別の案件に応じて確認項目をカスタマイズします。項目の詳細をご案内する前に、デューデリジェンスの大まかな分類を見てみることにします。
デューデリジェンスにはいくつかの分類方法がありますが、今回は、下記の3つの分類で考えてみましょう。
- 契約条件の精査
- 財務の精査
- 危機管理の精査
日本にデューデリジェンスという言葉が入った段階で、デューデリジェンスは上記の二つ、「契約条件」と「財務」の確認を中心としたものというイメージが定着しました。その為、デューデリジェンスの中で、調査スキルを必要とするリスク面の確認が疎かにされています。デューデリジェンスを専門とする調査会社が日本に存在していなかったことも、その原因の一つかもしれません。
M&Aにおけるデューデリジェンスのチェック項目
以下は一般的に行われるデューデリジェンスのチェック項目です。
基礎資料
会社の組織構造、法人の定款、および一般的な企業記録を慎重に確認します。 通常確認される文書には次のものがあります。
- 設立書類
- 会社細則
- 組織図
- 株主リスト
- ストックオプション契約
- 保証契約
- 助成金の契約
- 増資に関する契約
- 取締役会、株主総会、執行委員会の議事録
- 事業の売買の契約
- 過去5年間の財務諸表・監査レポート
- 次の5年間の財務予測、予算計画
- すべての信用契約、債務資料
税務
税務デューデリジェンスは、過去の所得税負債を調査し、繰越税とその潜在的な利益の分析を行います。 企業の弁護士は、すべての管轄区域で税金が最新であること、および予期しない税金の問題がないことを確認します。 一般的に確認される資料は次のとおりです。
- 過去5年間に提出された国内・国外の国・地方の所得、売上、その他の納税申告書
- 国内・国外の国や地方の税務当局からの通知書類
- 政府の監査書類
- 税の分担と移転価格契約
- 営業損失または信用繰越
- 税務当局との協議書類
適合性の分析
どのM&Aでも、将来のパフォーマンスとシナジー効果の分析は、現在の収益性と共に重要なアスペクトです。買収者としての重要なチェック項目としては、現在のビジネスに戦略が適合できるか、将来どのように連携できるかを分析します。そのためには、人材の統合と移行、コスト面の制約、技術面の適合性、一般的な企業文化の相違等の観点から分析を進めます。
知的財産
知的財産に関しては、通常、弁理士(知的財産の弁護士)が、対象企業の技術や商標等の知的財産のクオリティや適用範囲を精査します。
- 特許
- 著作権
- 商標
- ドメイン名
- 企業秘密
- ライセンス契約
- 知財訴訟
- 知的財産に対する負担
資産
企業の重要な資産が、M&Aの成功の鍵となります。 すべての資産の総価値と、それらに対する負債を算出しなければなりません。 以下のような資産を確認します。
- 在庫
- 不動産
- 機器
- 技術的な知的財産
- 研究開発資産
契約関連
対象企業のすべての重要な契約を確認することが、法的デューデリジェンスの根幹となります。通常、企業弁護士が、以下を含む、対象会社に関連する現在有効なすべての契約を確認します。
- 顧客とサプライヤーの契約
- 売掛金と買掛金のスケジュール
- 保証、ローン、クレジット契約
- パートナーシップまたは合弁事業の合意
- 機器のリース
- 和解契約
- 競業回避のための独占権の合意
- ライセンス契約
- 流通、ディーラー、販売代理店または広告契約
- フランチャイズ契約
- 雇用契約
従業員と役員
従業員が合併や買収の重要なリソースであるかどうかに関係なく、会社の経営と従業員基盤の質と構造を理解することは、会社の価値を理解するためにしばしば重要です。 雇用弁護士は通常、すべての従業員の契約、福利厚生、およびポリシーを確認します。 バイヤーはまた、一般に、取引後にどの従業員が会社にとどまるべきか、過去の従業員の問題または迫り来る将来の問題を理解しようと努めます。
訴訟履歴
取引に潜在的な法的リスクが含まれていないか確認することは必須です。 したがって、弁護士は一般に、対象会社に関連する係争中、や和解手続き中の訴訟や調停、または行政処分や改善命令手続等の有無を確認します。
コンプライアンスと規制事項
規制とコンプライアンスの問題を確認します。これには、対象企業と取引先全般が関係します。
日本のデューデリジェンスにおける問題点とリスク
日本では、契約条件や財務面のデューデリジェンスのみを行い、危機管理面の調査的デューデリジェンスが疎かになる傾向があります。日本国内では、情報開示の法整備が進んでおらず、危機管理面のデューデリジェンスがやりにくい状況です。
しかし、国際的なデューデリジェンスでは、危機管理面でのデューデリジェンスが必要不可欠となっています。特に、訴訟履歴の確認、政官界との癒着、談合等の不正、知的財産権の侵害リスク等、調査会社が専門とするデューデリジェンスを意識して行っておこないと、後で取り返しのつなかないことになってしまいます。デューデリジェンスを弁護士と会計士だけに任せる日本の慣習は、グローバルスタンダードではありません。
国際的な企業文化や法制度に意識を向けて、包括的なデューデリジェンスを実施し、M&Aの失敗を回避する最大限の努力を行うべきなのです。
まとめ:国際基準に則ったデューデリジェンスのために
M&Aにおける本当のデューデリジェンスは、弁護士と会計士だけに任せてすべてが完結するものではありません。日本国内案件はともかく、国際的なM&Aの場合、訴訟履歴、コンプライアンスの問題、役員のバックグラウンドチェック、知的財産権の調査などの側面も徹底的に精査する必要があります。これらの項目に関してはJapan PIのような興信所・探偵会社の専門ジャンルとなります。
デューデリジェンスの基礎的な概要と、目的に応じた調査項目、関連する法律などの情報を以下にまとめていますので、ご確認ください。