映画『ナイスガイズ』から読み解く、70年代アメリカの探偵事情

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Nice guys

今回は、2016年公開のアメリカ映画『ナイスガイズ!』(The Nice Guys)の探偵描写について解説します。

シェーン・ブラック監督、ラッセル・クロウとライアン・ゴズリングが主演を務めた、示談屋と私立探偵が、ある事件を捜査するうちに国家を揺るがすとてつもない陰謀に巻き込まれる物語です。

これはコメディ映画でドキュメンタリー性はありません。ただし、その当時の探偵業の実態について描写された場面があります。今回はその部分の時代背景の解説と、探偵映画のワンポイント英会話レッスンの記事です。

離婚法変更で多くの探偵が廃業

この映画の設定は、1977年のアメリカです。1970年代に入ってから、アメリカや西側の諸国では、離婚に関する民法の改正がトレンドとなっていました。

それは、 No fault divorce(無過失離婚)という制度のことです。つまり、どちらか一方が離婚したければ、すぐに離婚を認めるという制度です。

歴史的に見ると、大昔は、結婚は一生続く契約であり、離婚は認められていませんでした。時代が下って、近代では離婚が認められるようになりましたが、「どちらか一方に重大な過失がある時のみ離婚が認められる」という制度が維持されてきました。

さらに時代が下って、1970年代に、どちらか一方が離婚したいと言うのならすぐに離婚を認めましょう、という考え方になりました。それが「No fault divorce」です。

相手側の過失となる、浮気や不貞行為の証拠を集めるのは、ほかでもない探偵の仕事でした。そのため、無過失離婚制度が普及すると、離婚の浮気調査が主業務であった探偵業者のニーズが激減しました。

映画の台詞でも「多くの探偵が廃業した」

上記の時代背景を説明する、ライアン・ゴズリングが演じる主人公ホランド・マーチ氏のセリフを紹介します。

Holand MARCH (private eye) (v.o.) 

They implemented a no-fault divorce here a couple of years back. That screwed things up… Lotta private cops folded. (beat)

Not me. I got this guy, runs security at a local retirement park, he kicks a few cases my way slam dunks, most of ‘em.

(訳文)

Holand MARCH (探偵) (ナレーション) 

何年か前に、無過失離婚制度ができた。それで、いろいろ大変だったよ。探偵の多くが廃業した。

俺は違う。地元の退職者用公園の警備担当者が、いくつも、俺に都合のいい仕事を紹介してくれる。ほとんど、朝飯前のイージーな仕事だけどね。

引用元:Script Slug The Nice Guys(https://www.scriptslug.com/script/the-nice-guys-2016

スラング解説

ここからは余談になりますが、いくつか面白い言い回しがあるので、英語の表現について解説します。

Screw up

screwはスクリュードライバー(ねじ回し)のスクリューです。動詞で使うとねじ込むという意味になります。screw upで使うと、失敗するとか、ぶっ壊せという意味になります。

Slam dunks

slam dunksは、元々、バスケットボールのダンクシュートのことです。話し言葉では、朝飯前(の簡単な仕事)を意味します。この映画の主人公は、隠居した人様の公園の警備会社をやっている知り合いから、朝飯前の簡単な仕事をよく頼まれると言っています。だから、浮気調査が激減した時代でも、仕事にあぶれることがなかったということです。

日本の探偵は浮気調査だけやってていいの?

日本はテクノロジーはある程度進んでいますが、法律や文化の側面では鎖国体質が色濃く残っていると言わざるを得ません。特に離婚などに関する民事的な法律は明治時代後半から130年くらいで、あまり変わっていません。

探偵業も、民事的なトラブルを解決する業種です。民放時代の改革がほとんどない現状では、探偵業の役割や業態も大昔からあまり変わっていないということになります。

日本の探偵業者の収益割合は、浮気調査が70%以上と言われています。言うまでもなく、日本では、No fault divorce(無過失離婚)は、全く知られていないでしょう。ですから、探偵業者の収益の70%以上が浮気調査であるという現状が続いているのです。

ただし、他の多くの諸国で起こっている変革は、遅かれ早かれ、日本にも入ってくると思います。そうなった時のために、探偵業界は今のうちに、浮気調査以外の収益源を確保しておくことが得策だと思います。

国際結婚カッブルの問題

バイリンガル探偵として活動していると、国際離婚の際に、日本とその他の国での離婚法の違いでトラブルになるケースをよく見ます。日本の常識では、別居しても一方が離婚を許可しない限り離婚が成立しないと思うでしょう。しかし、無過失離婚制度が導入されている国では、1年くらい別居が続けば自動的に離婚が成立します。

日本人の多くはそうした事情を知らずに別居に至ります。しばらくして急に外国の裁判所から離婚訴訟の訴訟が届き、びっくりするというパターンが多いです。

日本人が昔つぎ込んの制度について基礎知識があれば、最初からもっと上手く立ち回っていたことだと思います。

まとめ

アメリカのコメディ映画を鑑賞するにしても、日本人にとってはアメリカの時代背景やカルチャーを知らないことで、意味が良く分からない部分がどうしても出てしまいます。

映画の脚本家もなるべく事実に即した時代背景を描くため、リサーチをしています。映画で英会話を学べるのはもちろんですが、時代背景にまで目を向ければ、カルチャーギャップの勉強にもなります。

バイリンガル探偵はそうしたこともチェックしながら映画鑑賞しています。またそれが実際の探偵業務にも生かされます。

将来的には、無過失離婚制度が導入され、浮気調査のニーズが激減する可能性もあります。探偵業者としては、そのための準備を今からどんどん進めていこうと思っています。

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