今回は、2012年公開の007シリーズ『スカイフォール』から、一つの場面について解説します。
007の敵役は、元MI6の工作員、シルバです。組織から見捨てられたことを恨み、工作員リストの流出や、MI6本部の爆破テロなどを実行します。
この映画の中から、ジェームズ・ボンドがデータ収集や機材担当の「Q」と出会う場面を紹介します。現場担当のジェームズ・ボンドはデータ担当のQが子供っぽかったので、最初は仲間だと思いませんでした。
この場面で、諜報活動や調査活動の役割分担について興味深い会話がありますので、ご紹介します。具体的には、以下の場面です。
007がQと顔合わせ
現場工作員のジェームズ・ボンド(007)は、美術館の中で、データ調査と機材担当のQと顔合わせします。身元バレを防ぐため、美術館のターナーの絵画の前で待ち合わせしていました。
ボンドはデータ収集や機材の担当者は、年配の科学者のような風貌の人だと思っていました。そこへ、20代の若者が現れ、絵画について、感想を聞いてきました。ボンドは、恋人募集中のLGBTの方と勘違いして、立ち去ろうとします。しかし、その若者が007と呼びかけたので、ボンドはこれがQであることを悟ります。
以下がその場面です。該当箇所のスクリプトは、こちらからも確認いただけます。
EXT. NATIONAL GALLERY – DAY
Bond goes up the steps of the National Gallery. INT. NATIONAL GALLERY – DAY J.M.W. Turner’s “The Fighting Temeraire” fills the screen. This magnificent painting shows a grand old ship being hauled to the scrap yard, an elemental sunset swirling overhead. Bond is sitting, looking at the painting. A slender young man in his twenties moves in next to Bond. Bond has no idea who he is.
Q
Always makes me a little melancholy… The grand old warship being ignominiously hauled away for scrap… The inevitability of time, don’t you think? What do you see?
BOND
A bloody big ship… Excuse me.
Q
007 … I’m your new Quartermaster.
Bond looks at him.
BOND
You must be joking.
Q
Why? Because I’m not wearing a lab coat?
BOND
Because you still have spots.
Q
My complexion is hardly relevant.
BOND
Your competence is.
Q
Age is no guarantee of efficiency.
BOND
And youth is no guarantee of innovation.
Q rivets Bond, impressive in his intensity:
Q
I’ll hazard I can do more damage on my laptop sitting in my pajamas before my first cup of Earl Grey than you can do in a year in the field.
BOND
Oh, so why do you need me?
Q
Every now and then, a trigger has to be pulled.
BOND
Or not pulled … It’s hard to know which in your pajamas.
Q acknowledges the point. Bond respects that Q stood up to him.
BOND offers his hand.
Bond
Q.
Q
(shakes) 007.
(gives him papers)
Ticket to Shanghai. Documentation and passport … And this.
He gives Bond a special case.
Inside: a new Walther PPK.
Q
Walther PPK/S 9mm short. Those are micro-dermal sensors in the grip. It’s been coded to your palm print, so only you can fire it … Less of a random killing machine, more of a personal statement.
BOND
And this?
Bond points to an empty cavity in the case.
Q gives Bond a small device, size of a stamp. Very low tech.
Q
Standard issue radio transmitter. Activate it and it broadcasts your location. Distress signal.
Bond presses a button: a tiny antenna on the device snaps up. He looks at Q.
Q
…And that’s it.
Bond looks at his gadgets.
BOND
A gun. And a radio.
He looks at Q.
BOND Not exactly Christmas is it?
Q
Were you expecting an exploding pen? We don’t really go in for that anymore.
Bond smiles.
Q
Good luck out there in the field. And please return the equipment in one piece.
Q goes. Bond watches him go. Smiles to himself:
BOND
Brave new world…
以下、日本語訳です。
ナショナルギャラリー-
ボンドはナショナルギャラリーの階段を上る。 ナショナルギャラリー- 日中 J.M.W.ターナーの「ファイティングテメレーア」が画面いっぱいに表示される。古い船がスクラップヤードに運ばれている壮大な絵が映る。ボンドは座って絵を眺める。 20代のほっそりした青年がボンドの隣に座る。ボンドは彼が誰であるか見当がつかない。
Q
いつも少し憂鬱になりますね…古き良き軍艦がスクラップになってしまう…時間の必然ですね。どう思いますか?
ボンド
でかい船としか…すみません。
Q
007 …私はあなたの新しいナビ担当です。
ボンドは彼を見て言う。
ボンド
冗談でしょ。
Q
どうして?白衣を着ていないから?
ボンド
まだニキビがあるから。
Q
私の顔は関係ありません。
ボンド
あなたの能力は大丈夫?
Q
ベテランだからって能力が高い保証はないでしょう。
ボンド
若いからって革新的という保証もない。
NS
PCさえあれば、パジャマで、朝飯前に、諜報部員の1年がかりの現場仕事に勝てますよ。
ボンド
じゃあ、俺はいらないだろう。
Q
時々、現場で銃をぶっ放す必要があります。
ボンド
ぶっ放さなくていいときもあるよね…パジャマで、その決断できる?
Qはその点を認め、ボンドもQを認めた。
ボンドは彼と握手する。
(Qはモンドに書類を渡す)
上海行きのチケットと書類とパスポート…そしてこれ。
彼はボンドに特別なケースを渡す。
新しいワルサーPPK。
Q
Walther PPK / S9mmショート。グリップにマイクロセンサーがあります。掌紋でコード化されているので、あなたしか発射できない…他人は使えない。
ボンド
これは?
ボンドは、ケース内の空のキャビティを指して言う。Qはボンドにスタンプのサイズの小さなデバイスを渡し言う。
Q
普通の無線発進機です。オンにすると、位置情報を発進します。危険時の緊急信号。
ボンドがボタンを押す:デバイスの小さなアンテナが光り彼はQを見る。
Q
…以上です。
ボンドは自分の機器を確認する。
ボンド
銃と無線。
彼はQを見る。
ボンド
クリスマスとは関係ないね?
Q
爆発するペンとかを期待してました?もうそんなのを使う時代ではないですよ。
ボンドは微笑む。
Q
現場で頑張ってください。そして、機材を無くさず返却してくださいよ。
Qは立ち去る。ボンドは彼を見送る。自分に微笑む:
ボンド
新しい時代か、すげえな全く…
調査活動の役割分担
諜報活動の世界でも、役割分担があり、分業しています。デジタル的なデータ収集やガジェットを担当する部門(OSINT=Open Source Intelligence / SIGINT=Signal Intelligence)と、現場を担当する部門(HUMINT = Human Sorce Intelligence)があります。
この場面の後に、ロンドンでのテロ攻撃を許してしまったMI6の責任者Mが、聴聞会に呼び出される場面があります。その場面で、閣僚は、Mに対し、現場でのアナログ的な調査手法は時代遅れだと批判しています。
‘…it’s as if you insist on pretending we still live in a “golden age” of espionage where human intelligence was the only resource available.’
「HUMINT(現場工作員の情報収集)のみが情報源であったスパイの黄金時代に今もいるようなことを、あなたは言っていますね。」
探偵興信所業務でも、現場の調査でしか分からないこともあれば、データ収集をした方が効率良く結果が判明する場合もあります。
調査手法の選択がキモ
007シリーズは、1960年代から継続しています。1960年代と2000年代ではm情報収集の方法もだいぶ変わっています。映画でもそれを意識して、現場工作員の007が大ベテランで、データ調査担当者が若者と言う設定をあえて選んでいるのでしょう。
例えば、ある不動産の所有者を割り出したいとすれば、不動産の登記データを取得するデータ調査をすればいいわけです。所有者を割り出すために、近隣者を取材したり、所有者が現れるのを張り込んだりするのは、効率の良い調査手法であはりません。ただし、不動産登記の所有者データが更新されておらず、現在の実際の所有者の連絡先が不明な場合では、現地での取材がどうしても必要になります。
案件の性質によって、調査手法を使い分けたり、組み合わせたりしていくことが重要です。探偵や興信所の窓口担当者は、調査内容を熟知していて、適切な調査手法を選択できなけらばなりません。
デジタル的なデータ収集
IT的な側面では、通信機器やインフラの発達で、どんどん飛躍的に進化しています。調査に関する機器、テクニックに関しても、比例して進化しています。しかし、デジタル的な調査に関しては、プライバシーに反する行為となるため、基本的にアクセスが制限されています。
そういう意味で、映画やドラマの中で簡単にできることが、現実には全く不可能ということも多いです。
現実に探偵や興信所を依頼する時には、どこまでがフィクションでどこまでが現実に可能なのかをよく考えて相談されることをお勧めします。
まとめ
探偵興信所業務の中でも、相談が入った時にどのような調査手法で調査を進めるか非常に悩むこともあります。調査手法によって料金を変わります。依頼者になるべく余計な負担をかけず効率よく調査をしなければいけないプレッシャーもあります。しかし、あまり合理化しすぎて調査手法を限定してしまうと結果が出ない可能性もあります。
私達のような探偵・興信所業者では、法的な制約もあり、世の中に存在する全てのデータにアクセスできるわけではありません。また、PCや携帯電話での通信などに関する情報収集は、多くの場合法的規制があり実現不可能です。
そうなると、挑戦しようはおおよそ以下のものに限定されます。
- 尾行張り込み等の行動調査
- 現地取材
- 電話取材
- 公開情報の精査(メディアサーチ)
- 偽装工作
- 潜入調査
上記のような調査手法を想定して、どういう組み立てで調査計画を立てるか考えます。探偵・興信所に相談するときも、どのような調査手法でどのように組み立てて調査をしていくか。おおよそ把握した上で、依頼を決定すべきでしょう。