興信所の結婚調査で逮捕された行政書士

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2021年8月、探偵業者御用達の行政書士が、戸籍謄本などの不正請求で、兵庫県警に逮捕されました。2017年から2021年の間に、この行政書士のI氏は、おおよそ50社の探偵社と取引し、約800件の戸籍謄本や住民票を請求したと報道されています。しかし、I氏は、正当な業務で公簿取得したとして、容疑を否認しています。今回は、この事件について、解説します。

事件概要

新聞報道などによると、I氏は、2019年の6月頃、大阪市内の探偵業者からの依頼で、兵庫県加古川市の男女3人について合計8通の公簿を取得しました。また、別の探偵会社からの依頼でも、兵庫県姫路市の男性の公簿を取得しました。

姫路市内の男性が、自分の戸籍が取得された可能性があるとして警察に相談していたとのことです。

実際の事件の発端は、以下のとおりです。大阪市内の探偵社が、離婚歴のある女性の結婚調査を受注しました。この依頼者は、「結婚相手の女性の、過去の離婚理由を確認したい」と希望していました。探偵社は行政書士のI氏に戸籍の取得を委託しました。対象者の戸籍謄本を取得すると、離婚相手の氏名や現住所が判明するからです。

戸籍謄本から、姫路市内在住の対象者の、元配偶者の男性の連絡先がわかりました。大阪の探偵社の調査員は、元配偶者を直接訪問し、離婚理由を取材しました。

姫路市内の男性は、なぜ探偵社が自分の連絡先を見つけたのか疑問に思い、警察に相談しました。その過程で、「日本では、過去の離婚や配偶者ついて記録されているのは、戸籍謄本のみ」という事実を知ることとなったのでしょう。姫路市の男性は、自分の戸籍が取得されたことを確信し、警察に捜査を要請しました。

行政書士の職務請求

日本では「士業」と呼ばれる、弁護士・会計士・税理士・司法書士・行政書士などに、戸籍謄本や住民票の公簿を請求できる職務請求権が与えられています。

ちなみに、探偵業者には職務請求権はありません。日本では、探偵業者に資格制度がないため、公簿の職務請求権が与えられていないのです。

探偵と行政書士は関連業種

探偵業者は、古くから、行政書士と連携して公簿を取得していました。なぜ行政書士と連携するかというと、行政書士が士業のなかでは最も取得しやすく、専門性の面でも協業がしやすい、ということが挙げられます。弁護士、弁理士、会計士、税理士などの資格があれば、行政書士もできるのです。行政書士は、探偵業者にとっても、使いこなしやすいということです。

また、一部の行政書士は、探偵業者から公簿取得のニーズがあることを知っていて、積極的に探偵業者に売り込みをしていました。

警察官を20年やると行政書士になれる

公務員を17年(中卒は20年)やると、自動的に行政書士になれます。警察官は公務員ですから、20年間やれば自動的に行政書士になれます。

警察官や公務員上がりの行政書士は、努力して近くに合格したわけではありません。そういう意味で、探偵業者からすると、そういう行政書士が、融通が利く受注をしてくれる傾向があります。

結婚調査の実態

結婚調査とは、一体何なんでしょうか? 結婚する前に相手方をじっくり調べるということですが、調べる内容については人によって感覚が大きく違っていると思います。特に世代や地域、国際結婚かどうかなど、気になる部分が千差万別だと思います。前述の依頼者についても、再婚相手の過去の離婚歴について、人生の大切な決断であるため、「探偵を雇ってでも過去の離婚理由を知りたい」という人もいるということです。

タブーな部落調査

これはタブーですが、主に日本の西側の地域では、結婚相手が同和関係者かどうかを調べたいというニーズがあります。これは探偵業法でも規定されている、差別につながる調査ということになります。だから、タブーなのです。

一昔前は、多くのの探偵社が「全国部落総鑑」という部落地域が記載された地図を表示していました。そして部落に関する結婚調査が入った時は、調整対象者の戸籍謄本を徹底的に集めて、先祖の本籍地苗字を辿っていきました。

全国部落総鑑には、部落地域の住所と苗字が記載されていました。そして、もし調査対象者が部落出身者であることがわかれば、穢れを祓うために事務所で報告書に塩をまいてから、依頼者に報告するような習わしもありました。

現在は、全国部落総鑑はすべて回収され、この世に存在しないことになっています。また探偵業者がそのような部落調査を受注すると、探偵業法の違反となります。

離婚理由の調査

再婚の時の結婚調査などでは、過去の離婚歴の離婚理由の調査を依頼されることがあります。一度離婚しているとなれば、その時の離婚理由が気になるのは当然です。

離婚理由を確認するには、元配偶者に尋ねるのが常套手段です。しかし、依頼者側が調査対象者の前配偶者の連絡先を知っていることはほとんどありません。

そうなると、調査対象者の戸籍調査を行って、配偶者の連絡先を割り出すしかありません。その時に活躍するのが行政書士です。

数十年前であれば、探偵業者が戸籍請求などの委任状を偽造して、調査対象者の戸籍謄本を取得してることもありました。昔は戸籍謄本請求の際に身分証を確認する制度もなく、偽造した委任状でも問題はありませんでした。

ただし、偽造委任状までやるのは行き過ぎているので、行政書士の職務請求で戸籍調査をしてもらう方が安全でした。現在でも、探偵業者に公簿の職務請求権がないため、探偵業者は知り合いの行政書士に戸籍紹介を委託することになります。

そして、本題の行政書士が逮捕された事件に戻ります。行政書士のI氏が逮捕されたのは、まさにこの離婚理由調査のための結婚調査でした。

戸籍調査=差別?

前述したように、部落調査のために戸籍調査を行っていた過去がありました。ただし、戸籍謄本に直接、部落出身であるかどうかの記載されているわけではありません。しかし、実際には多くの人がそう思っています。それは誤解なのですが、そういうイメージが先行してしまって、取り返しがつきません。

その影響で、「戸籍調査=差別調査」というレッテルを貼られてしまっているのが、現状でもあります。戸籍を管理する行政側も、その風潮に迎合しています。

戸籍謄本の本来の意味

日本国籍者しか戸籍謄本を持てませんが、日本国籍であることを証明する為の公的書類でもあります。また、出生証明、結婚証明、離婚証明、死亡証明、養子縁組証明、氏名の変更証明、といった各種の証明の際に必要不可欠な書類です。

差別に繋がるかもしれないからというだけの理由で、戸籍謄本の開示をあまりにも厳正にしすぎると、当事者の生活に支障が生じるという問題もあります。

まとめ

結婚は法的手続きですから、当然、法的手続きの相手方である結婚相手に関しても、戸籍調査ができてもおかしくないと思います。重婚でないかどうか、あるいは離婚歴がないのかといった内容を確認するために結婚相手の現状を確認するなら、当該の人物にとって当然の権利だと言えます。

今回逮捕された I 氏は、容疑を否認しています。不正な戸籍請求ではなく、正当な理由による職務請求であったと語っています。

日本の起訴率は99%と言われています。逮捕報道されてしまっているので、起訴は免れ難いのかもしれません。ただし、現段階ではどういう処分になるか、様子を見て行くしかありません。

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