オリンピックの演出チームで音楽担当に任命された小山田圭吾氏が、過去の障害者いじめ記事の問題で辞任しました。
公職に就く人のデューデリジェンスのことを、業界用語で「身体検査」と言います。例えば、政治家の入閣の際などには、徹底した身体検査が行われることが知られています。近年では、民間企業でもタレントや有名人を自社広告やPRに起用する際、身体検査を行うことが増えてきました。Japan PIでも、身体検査サービスをご用意しています。
今回の記事では、小山田圭吾氏と身体検査について解説します。
誰が小山田氏の身体検査をしたのか?
今回の小山田氏のケースでは、オリンピック・パラリンピック組織委員会が彼を選びました。オリンピック委員会は、東京オリンピックの開催が決まった時に組織された、半官半民の団体です。会長には、スポーツ界に縁の深い議員が就任し、そのほかのメンバーには大企業の実業家やスポーツ界の著名人など、さまざまな有力者が就任しています。そして、オリンピックの演出に関しては広告代理店の電通が仕切っています。
コロナウイルスでオリンピックが延期になった上、前会長の森喜朗氏が女性蔑視発言で失脚しました。それらの影響で、森喜朗氏の人脈で加わっていた元々の演出チームのメンバーが一斉解散となりました。
このような背景があったために、ギリギリになって新しい演出チームメンバーを選ばざるを得ず、身体検査が疎かになったものと思います。さらに、今回の組織委員会のように特定の目的のために立ち上げられた、やや寄せ集め的な団体では、身体検査を専門として対応する人材がいたかどうかが疑問です。
内閣発足の際の身体検査
ここでは、新規政権で新しい閣僚を選任する際の、入念な身体検査を例に挙げて解説します。入閣した議員にネガティブな情報があれば、週刊誌やマスコミの格好の餌食となり、辞任に追い込まれてしまうため、以下のボイントを徹底的にチェックします。
- 過去の問題発言・行動
- 交友関係
- 異性関係
- 金銭スキャンダル
- 利権などの癒着問題
- 議員の身体検査の慣例
政権発足の際は、内閣関係者が、警察庁や国税庁、公安調査庁などに依頼して、デューデリジェンスを行っている模様です。
内閣からの依頼であれば、政府系の捜査機関は協力を厭わないということです。ただし、政府系の捜査機関は内部で保持しているデータでチェックを行うのみで、事件捜査ではないですから、警察が徹底した捜査を行うとは思いません。
一方、粗探しをするマスコミ側は、公開されている情報や過去の報道記事、そして関係者からの密告などをもとに粗探しを行なっていきます。
そういう意味でも、身体検査を行う側も、公開情報の精査(メディアサーチ)が必要不可欠な調査手法となります。
内閣関係者は、懇意にしているマスコミ関係者にも身体検査の相談をすることがあると言われています。やはり、マスコミが見つける粗はマスコミに探させるのが良い、ということでしょう。
メディアサーチに必要な日数が足りなかった?
今回、関係者の辞任などでオリンピック・パラリンピックの演出チームは総入れ替えがされており、小山田氏への要請や、就任後の流れを考慮しても、通常のスケジュールよりも時間が大幅に足りなかったことが想像できます。
民間の調査機関を利用する場合、メディアサーチに必要な日数は2〜3日ほどですが、オリンピックほどのイベントで予算も豊潤にある場合、最短1日程度で、クオリティの高い調査を行うこともできたはずです。このことを考慮すると、大会組織委員会の脇が甘かった、あるいはメディアサーチやデューデリジェンスという発想そのものがなかったのでは、と指摘されても仕方がないでしょう。
メディアサーチの重要性
公職に就任する人物に関して言えば、一般人とは違い、その人物に関しての公開情報が多いはずです。
公開情報というのは、氏名でネット検索して1ページ目に出てくる情報だけを指すのではありません。情報が多い人物ほど、メディアサーチでは「ディープサーチ」と「情報の分析能力」が重要になります。
過去のニュース記事や登記簿謄本などは、単なるネット検索では確認できません。ただし、特定の会員専用サイトに会員登録することで確認できます。これらは「半公開情報」と呼ばれ、完全にオープンで誰でも閲覧できる情報とは区別されます。
また、政治家の資金問題に関しては、政治団体が公開している収支報告書などの手書き文書を確認する必要も出てきます。手書き文書のスキャン文書がPDFの形式で保存されている場合、ネット検索では簡単には検索できません。
このように、メディアサーチをするにも経験や知識に基づいたスキルが必要なのです。
メディアサーチを軽視する国民性
諜報活動の業界では、公開情報の精査(メディアサーチ)をOSINT(Open Sorce Intelligence)と呼びます。日本国内では公開されている情報は誰でも見れるからという理由で、そうした調査方法を軽視する傾向があります。しかしながら、諜報活動の重要性を認識している国々では、公開情報の精査という調査手法が一つの分野として確立されています。そしてネット社会になったことにより、メディアサーチの重要性がさらに高まっている状況です。
今回の小山田圭吾氏の問題も、まさに「誰でも見られる」情報を軽視した結果であると言えるでしょう。
まとめ
小山田氏のスキャンダルに関しては、オリンピック組織委員会がデューデリジェンスを怠った結果で発生しました。その背景には、メディアサーチを一つの調査しようとして認知していない、日本社会の問題があるのかもしれません。
記者や報道関係者であれば、当然メディアサーチの重要性を認識しています。報道関係者は、常に公職に就任した人物の粗探しをして、スクープを狙っています。それを防御する側の組織や団体も、リスク管理として、徹底したメディアサーチを行う人材や調査ノウハウの準備を入念に行っておく必要があります。