2020年、Uberの探偵興信所版としてスタートしたTrustifyが、詐欺罪で起訴され、破綻しました。
Trustifyは、IT起業家のダニエル・ボイス(Daniel Boice)氏が、2015年6月23日、ワシントンD.C.で創業しました。当初、ボイス氏は、自身の離婚の時に探偵業者を雇いました。その時、探偵業者の信頼度や料金体系がわかりにくい思いをしたことをっかけとして、Trustify(当時の名称はFlimFlam)を創業しました。探偵興信所業界のUberを目指して、探偵調査をより簡単かつ安価にすることを目論みました。
投資家資金を私費に流用→豚箱行き
ボイス氏は、投資家から集めた資金を個人的出費に流用しました。そして、2020年12月、アレクサンドリアの連邦裁判所で電信詐欺と証券詐欺の罪を認めました。2020年夏に逮捕される前に、アレクサンドリアからフロリダに引っ越したダニエル・ボイス氏は、3月に刑を宣告される予定です。
自身の離婚をきっかけに起業
ボイス氏は、彼自身の離婚で探偵業者を雇ったことをきっかけに、オンラインで探偵興信所のサービスを低料金でマッチングさせる会社(FlimFlam)を作りました。Uberのコピーモデルですが、本家のUberと同様、資金ショートしました。 ボイス氏は法廷で、投資家に嘘をついたことを認め、実際には彼の会社が崩壊していたにもかかわらず、何百万米ドルの収益が出ていると粉飾し、他の法人や何千人もの個人投資家から、出資金を騙し取りました。
投資家を騙して自転車操業
裁判所の記録によると、2019年の初めまでに、彼は90の投資家から1850万米ドルを調達しました。その資金のほとんどは詐欺行為や事業破綻により消失しました。2019年春には、「Trust, but Verify(信ぜよ、されど確認せよ)」と新たなキャッチコピーをつけました。その時点で、5つの法廷で、未払いの家賃、賃金、請求書、および株主からの質問に対する回答無視等で、訴訟を提起されていました。
ボイス氏は、数年間は成功したIT起業家のイメージを維持してて、プライベートジェット、結婚式や子供たちとのサマーキャンプ、 2つの家の住宅ローン、宝石、カリブ海での休暇等に、少なくとも370万米ドルの投資家資金を私費に流用しました。 ボイス氏を訴えた元従業員は、60万米ドルの資金を使用して、彼自身と彼の当時の妻についてのドキュメンタリー映像を作成した(未完成のまま)と訴訟で暴露しています。証券取引委員会は、流用された金額は800万米ドルに近いとしています。
時給30米ドルで下請け探偵を雇う
Trustifyの活動自体は、当初普通に営業されていました。 しかし、同社の探偵興信所業者への支払いは、1時間あたり30米ドル、顧客からの時間単価は75米ドルと設定されていました。この設定では、ハイクオリティな探偵業者を雇うことができず、調査品質を維持することが困難でした。ただし、投資家からの出資金を元に、莫大な広告宣伝費を注ぎ込んでいました。 アメリカでは州によって、探偵興信所のライセンスが異なります。同社は、アメリカの探偵ライセンスに関することでも、法的なトラブルに直面していました。
同社は、銀行残高が10,000米ドルしかなくなり、バージニア州アーリントンにある豪華な「フィルムノワールに触発された」デザインのオフィスから立ち退きとなった時点でも、投資家には、1800万米ドルが手元にあると吹聴していました。 不正行為の中には、Trustifyには無関係の投資銀行からの電子メールの受信を偽装した工作も含まれていました。 これは、別の投資家にもっと資金を投入する為の説得材料に使用されました。 同社は、また、連邦政府から、セキュリティクリアランス調査を委託されたという虚偽の主張で、投資家を騙していました。
2018年11月、同社は、従業員への支払いを停止し、解雇しました。 2019年3月には、600万米ドル以上を投資した企業から訴訟を提起されました。ボイス氏は、Trustifyを健全に経営する意思は全くなく、投資金を集める不正行為にのみ終始していた、と供述しています。
アメリカの探偵興信所業界でも不評だった
アメリカの探偵興信所業界も、最初から、Trustifyを懐疑的に見ていました。古くからの探偵業者は、同社が、調査業者の品質や、依頼者の依頼目的の健全性をチェックする機能が欠如していることを懸念していました。また、同社は、不倫出会い系サイトのAshley Madisonからハッキングで漏洩した個人氏名を検索可能な状態にし、それを、商業目的に転用したことに触れて、同社は倫理的にも問題があったとしています。
アメリカの老舗の探偵社は、Trustifyのようなビジネスモデルで収益が上がらないことは最初からわかっていたと語ります。そのくせ、ボイス氏のような華美な生活をしていれば、破綻するに決まっているとも語っています。
裁判所の記録では、ボイス氏の元妻は起訴されず、SECとの和解が進んでいます。 元従業員がバージニア州の連邦裁判所に提起した訴訟、および、雇われていた広報会社がニューヨーク州裁判所に提起した訴訟では、ボイス氏に対して破産判決が下されました。
参考記事
Washington Post Dec 04, 2021
まとめ
探偵興信所業界では、案件によって、労力や難易度が変わり、決まった料金体型を表示しにくい事情があります。弁護士業界も似たような要素がありますが、弁護士会では、標準料金を定めています。おおよその料金枠を定めることができたとしても、例外も多数出てしまいます。
UberやAirbnbのように、IT技術で、消費者と業者を安価にマッチングさせるという発想は素晴らしいです。しかし、デリバリーや民泊と違い、探偵興信所業務は、資格やスキルのない人物が、急遽、参入できる業界ではありません。そういう意味で、オンラインのマッチングサイトだけで、集客し、業者から仲介手数料を取得するというビジネスモデルは成り立たなかったということが言えます。
探偵興信所に限らず、エンターテイメントやスポーツ業界でも、職人的技術を売りにする職業では、技術や能力だけでなく、広告宣伝力が勝敗を分けます。いかに技術や能力が優れていても、広告宣伝が成功しないことには、才能は宝の持ち腐れです。そうした意味で、専門職では、広告宣伝と実務能力のバランスをうまく取った営業が不可欠となります。
しかし、実際には、専門業務では、実務能力だけが強かったり、広告宣伝だけが強かったりする偏った業者に二極化しやすい傾向があります。消費者側は、それを見越した上で、賢明な業者選びをする必要があるのでしょう。
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