採用戦略と人事管理は企業経営にとって最重要タスクのひとつです。部落差別、労働組合つぶし等の黒歴史の影響が残り、採用調査自体にネガティブな印象を持たれている側面がありますが、企業のリスク管理上、採用調査は非常に重要な役割を担います。
本記事では、バックグラウンドチェック、レファレンスチェックや身辺調査との違いから実施する調査項目やその際に必要な書類など解説します。
採用調査とは
採用調査とは、採用人材の品質管理と適正や能力、そして、人間性やストレス耐性を事前に確認するための調査です。採用候補者の能力や適性を確認するための調査です。経歴や資格などの「要件」、および実務能力や評判といった「適性」を確認します。また人間性やストレス耐性を事前に把握した上で、適材適所の起用法を策定するための情報収集の側面も持っています。
なお、本記事の内容と採用調査の基本に付いて、YouTubeの動画にもまとめました。ブログでも、同一の内容を解説しています。
バックグラウンドチェックとの違い
バックグラウンドチェックは、採用調査の中で、学歴や資格、職歴、犯罪歴、訴訟歴、破産歴等を確認する調査を主に指します。候補者の信頼性や適格性を担保するための調査です。
レファレンスチェックとの違い
レファレンスチェックは、採用調査の手法の一つです。求職者が提供する元上司や同僚等のリファレンス(参照先)と連絡を取り、彼らから求職者の能力や経験、人間性などに関する情報を確認するプロセスであり、人間性や適正を確認することが主目的です。
身辺調査との違い
身辺調査は、人物の背景を調べる調査全般を指し、採用調査も身辺調査の一部と言えます。ニュアンス的には、身辺調査というと、対象者の私生活や人間関係など、プライベートな側面に焦点を当てた調査を含みます。採用調査は応募者の職業的な能力や適性を評価するための調査です。
採用調査の調査項目
採用調査中心となる調査項目を紹介します。
学歴
候補者の教育履歴に焦点を当てます。具体的な情報としては、候補者が卒業した学校名や所在地、取得した学位や資格、卒業年月日、専攻や専門分野などが含まれます。学歴の調査を行うことで、学歴詐称が発覚するケースもあります。年齢が高い候補者なら、名簿図書館の同窓会名簿で確認できる場合があります。そうでない場合、卒業校から卒業証明書を取得して確認します。その場合、候補者に卒業証明書を提出させ、その真偽を卒業校に連絡して確認します。
職歴
候補者の過去の雇用履歴に焦点を当てます。具体的な情報としては、候補者が勤務した会社名と所在地、雇用期間、役職や職務内容、業績や達成した成果などが含まれます。自身の経歴や職歴などを意図的に虚偽の情報で装飾したり改ざんしたりする経歴詐称が発覚する場合もあります。個人情報保護法の規定で、候補者の承諾なく前職に連絡しても、回答が得られません。候補者の承諾を得て確認します。
前職状況
前職調査は、採用候補者の前勤務先に問い合わせをし、在籍期間や勤怠状況などを確認します。具体的に、前職に在職した事実の有無や、在籍期間に間違いがないかどうかの確認や前職での勤怠状況、人事評価、給与体系の確認を実施します。メディアサーチの手法で、候補者の前職在職を示す記事が確認できる場合もあります。そうでなければ、候補者の承諾を得て、前職の人事部や出身部署に連絡して確認します。候補者に前職から退職証明書を取得させる手法もあります。また、レファレンスチェックの手法で確認する場合もあります。前職の規模や業種によって、確認手法を使い分ける必要があります。
前科・犯罪歴
調査対象者の過去の前科・犯罪歴を調査し、企業が候補者の信頼性や法的要件に適合する能力を評価します。履歴書の賞罰欄に記載させたり、直接質問して候補者に自己申告させます。質問されて、犯歴があるのに無いと虚偽申告すれば、経歴詐称となります。
日本の警察の犯歴記録は完全非公開です。自己開示請求すら不可能です。警察からの犯歴の取得ができないため、ネットやソーシャル記事と過去新聞記事の照会を中心としたメディアサーチで犯歴照会するしかありません。犯歴照会とは異なりますが、反社データのチェックは可能です。反社チェックについての詳細はここちらの記事をご覧ください。
ちなみに、例外として、海外への移住や海外就職の場合に限り、本人が犯歴記録(警察経歴証明書/渡航証明)を取得することが可能です。移住や海外での特定の就職時に犯歴照会が法律で義務付けられている事例があるります。そのため、警察は、渡航者や海外就職者に限り、犯歴の開示請求に応じています。警視庁のウェブサイトには、渡航証明(犯罪経歴証明書)についての詳細があります。
採用調査に必要な書類
日本国内の採用調査では、職業安定法や厚生労働大臣の指針などの制約が存在します。「知らなかった」では済まされないため、調査の際はこれらの制約について留意する必要があります。
調査同意書
メデァイサーチ以外の手法で採用調査を行う場合には、企業は採用候補者から調査の承諾を得る必要があります。中途採用者の採用調査で最も基本となる「職歴照会」においては、採用候補者が調査に同意していることを示す「調査同意書」が不可欠となります。更に、入念な照会の為には、採用候補者に様々な情報開示の為の「委任状」を提出させる必要があります。情報ソースによっては、所定の委任状の使用が義務付けれている場合あるため、注意が必要です。
本人の身分証のコピー
情報ソースとなるほとんどの第三者機関では、通常、本人による委任状と合わせて身分証のコピーが必要となります。
第三者開示で照会が可能な情報ソース
以下、本人からの委任状と身分証のコピーを用いて、第三者開示請求で情報収集できる情報ソースについて説明します。ただし、これらの証明書の提出を採用候補者に求める場合、照会の必要性の根拠を客観的に示す必要があります。
住民票照会
身分査証や日本での就労資格を有しているかどうかを確認する際に有効です。外国籍者の場合は、住民票に滞在資格が記載されます。
市区町村役場において、住民票の請求が可能です。請求にあたって、以下の情報と書類が必要になります。
- 対象者の氏名と住所
- 本人の委任状
- 代理人の身分証
戸籍謄本の照会
候補者の親族に、政治的な関与がないか、反社会的勢力がいないか等を確認したい場合、日系ブラジル人等で日本国籍を有していて就労資格があるのかどうかを確認する場合等に、戸籍の登録情報の照会が有効です。ただし、戸籍照会が差別調査の目的でないこと、その照会に合理的な理由があることを明確に示す必要があります。
市区町村役場にて、戸籍謄本の取得が可能です。取得にあたっては、以下の情報と書類が必要となります。
- 本籍と筆頭者の情報
- 本人の委任状
- 代理人の身分証
納税証明書の照会
納税証明書を複数年照会すると、過去数年の対象者の年収を確認することができます。採用選考で、納税証明書の提出を要請することはあまり一般的ではありません。しかし、前職での年収や副業収入が無かったかどうか確認するには有効な調査手法です。採用選考でこの証明書を提出させるには、この照会が必要である客観的な根拠を示す必要があります。
市区町村役場で、納税証明書の請求が可能です。請求にあたって、以下の情報と書類が必要になります。
- 対象者の氏名と住所
- 本人の委任状
- 代理人の身分証
運転記録照会
運転記録の照会は、自動車安全運転センター(Japan Safe Driving Center)で行うことができます。候補者に照会記録を取得•提出させる場合は、車両運転を主体とした業務の採用選考である等、照会の必要性を示す根拠が必要です。運転記録は、候補者の性格や人間性を確認できる一つの要素ですが、採用選考において、この照会が必要である客観的な根拠を示す必要があります。
信用情報照会
以下3団体で、信用情報の照会が可能です。自己開示のシステムがあるのみですので、第三者として代理取得する場合は、本人の委任状や身分証等が必要です。また、これらの照会を実施する場合は、採用選考において債務情報の照会が必要である客観的な根拠を示す必要があります。例えば、金銭を扱う会計部門や現金輸送の警備員の採用であれば、信用情報の照会の妥当性が認められます。それ以外の場合で信用情報の取得を候補者に求める場合は、信用情報の照会が採用選考において、必要不可欠である根拠を示せることが重要です。
- CIC (CREDIT INFORMATION CENTER) https://www.cic.co.jp/mydata/index.html
- JICC(日本信用情報機構) https://www.jicc.co.jp/kaiji/
- Japanese Bankers Association (銀行協会) https://www.zenginkyo.or.jp/pcic/open/
破産歴
官報に破産記録が掲載されます。官報は公開情報です。実際には、ネットで会員登録して、氏名検索します。氏名と住所の一致結果での照合となりますので、破産時の正確な住所が不明だと、同姓同名の別人と区別がつかない可能性があります。
採用調査を規制する法律
少し込み入った内容になりますが、採用調査を規制する法律についてまとめました。
職業安定法
(求職者等の個人情報の取扱い)
第五条の四 公共職業安定所等は、それぞれ、その業務に関し、求職者、募集に応じて労働者になろうとする者又は供給される労働者の個人情報(以下この条において「求職者等の個人情報」という。)を収集し、保管し、又は使用するに当たっては、その業務の目的の達成に必要な範囲内で求職者等の個人情報を収集し、並びに当該収集の目的の範囲内でこれを保管し、及び使用しなければならない。ただし、本人の同意がある場合その他正当な事由がある場合は、この限りでない。
参照元URL: https://www.mhlw.go.jp/bunya/koyou/dl/h241218-03.pdf
労働大臣指針 平成11年労働省告示第141号
法第5条の4に関する事項(求職者等の個人情報の取扱い)
1 個人情報の収集、保管及び使用
(1) 職業紹介事業者等は、その業務の目的の範囲内で求職者等の個人情報(以下単に「個人情報」という。)を収集することとし、次に掲げる個人情報を収集してはならないこと。ただし、特別な職業上の必要性が存在することその他業務の目的の達成に必要不可欠であって、収集目的を示して本人から収集する場合はこの限りでないこと。
イ 人種、民族、社会的身分、門地、本籍、出生地その他社会的差別の原因となるおそれのある事項
ロ 思想及び信条
ハ 労働組合への加入状況
(2) 職業紹介事業者等は、個人情報を収集する際には、本人から直接収集し、又は本人の同意の下で本人以外の者から収集する等適法かつ公正な手段によらなければならないこと。
参照元URL: https://kouseisaiyou.mhlw.go.jp/consider.html
厚生労働省「採用選考時に配慮すべき事項」
就職差別につながる恐れがある14事項
1. 「本籍・出生地」に関すること
2. 「家族」に関すること(職業・続柄・健康・病歴・地位・学歴・収入・資産など)
3. 「住宅状況」に関すること(間取り・部屋数・住宅の種類・近隣の施設など)
4. 「生活環境・家庭環境など」に関すること
5. 「宗教」に関すること
6. 「支持政党」に関すること
7. 「人生観・生活信条など」に関すること
8. 「尊敬する人物」に関すること
9. 「思想」に関すること
10. 「労働組合(加入状況や活動歴など)」、「学生運動などの社会運動」に関すること
11. 「購読新聞・雑誌・愛読書など」に関すること
12. 「身元調査など」の実施
13. 「全国高等学校統一応募用紙・JIS規格の履歴書(様式例)に基づかない事項を含んだ応募書類(社用紙)」の使用
14. 「合理的・客観的に必要性が認められない採用選考時の健康診断」の実施
外国人や海外在住者の調査
西側諸国やアメリカ英語圏諸国では、指紋収集と同時にバックグラウンドチェックの結果を本人が取得する形式が主流です。外国人や海外在住者の調査の場合、滞在国でのバックグラウンドチェックは採用候補者を通して行うことができます。
例えばアメリカの場合、採用候補者本人がFBIに所定書類や指紋採取記録を送り、バックグラウンドチェックの結果を取得することができます。なお、経歴に関しては、採用候補者に年金手帳のコピーを提出させることにより、そこに記載のある過去の職歴が確認できます。
海外で主流の採用調査手法である、リファレンスチェックの事例もご参照ください。
まとめ
人材採用の品質管理は、企業運営において重要な要素となっています。リスク管理の観点から実施される採用調査は、求職者のスキルと適性を確認するだけでなく、その人間性やストレス対処能力までも評価することが可能となり、効率的な人事戦略を策定する上での重要な指針となります。
重要ポストの採用調査では、候補者の以前の上司や同僚、前職の人事部門や出身部署に接触し、情報の確認が必要となります。この際、候補者からの調査同意(調査同意書や委任状)の取得が必須となります。加えて、より綿密な審査を実施するなら、候補者の政治的な関与や反社会的勢力との関係、年収や副業に関する収入、運転記録、信用情報なども調査対象となってきます。外国籍の候補者の場合には、住民票等の滞在資格の確認まで含まれます。これらの調査を実施するにあたっては、各調査の必要性を客観的に示す根拠が必要となります。そして、これらの情報収集は、個人情報保護法や職業安定法などの法規制を遵守することが求められます。現代社会では、人材のグローバル化が進んでおり、外国籍の人材に対するバックグラウンドチェックを可能とする環境整備も、企業にとっては必要不可欠な課題となっています。
当社、Japan PIの採用調査は、学歴・職歴の確認、バックグラウンドチェック、レファレンスチェックなど幅広い調査項目をカバーしています。もし、何かお困りのことがありましたら、無料相談を承っておりますので、お気軽にお問い合せください。