諜報機関や情報機関と聞くと、アクション映画やサスペンスドラマなどで活躍するスパイや工作員を思い浮かべるという人も多いのではないでしょうか。また、CIAやFBIといった組織を連想する人もいると思います。実在する諜報機関とは、国家の安全保障における他国の情報(インテリジェンス)の収集や分析を行う、スペシャリストの集団です。国や目的によって、地道なリサーチ作業から、多くの人が思い浮かべるようなスパイ活動まで、任務は多岐にわたります。
今回は、謎多き諜報機関についてスポットを当て、プロの現役探偵が世界中の諜報機関を規模の大きさや知名度、情報収集力によってランキングで紹介し、それぞれの組織を解説します。
世界の有名諜報機関トップ20
日本の内閣情報調査室(内調と略称される)を含めた、世界的に有名な情報機関トップ20を紹介します。アメリカの CIA、NSA、FBI 、イギリスのMi 6、イスラエルのモサドといった、ハリウッド映画でもおなじみの映画やドラマにも登場する情報機関が多くランクイン。ボリウッド映画でよく登場するインドの諜報機関「RAW」、情報制限で映画には出てこない、中国のMSS(国安部)も入っています。
各機関の紋章も掲載しています。ランキングについては、筆者の独断で順位付けをしています。
1. CIA (Central Intelligence Agency・中央情報局) – アメリカ
CIAはアメリカで最初に発足された国際機関で、1947年9月18日に誕生しました。CIAの本部はバージニア州ラングレーに置かれており、大統領の指示のもと、米国の安全保障のために情報の収集と分析を行っています。CIAのエージェントは、世界中で情報収集しており、アメリカにおける最初の防衛線と言えるでしょう。
紋章には、アメリカの国鳥であるハクトウワシが描かれています。
2. RAW (Research and Analysis Wing・インド調査分析局) – インド
RAWは、ニューデリーに本部を置き、1968年9月21日に発足しました。外国の情報を収集し、テロ対策を行う国際機関で、インドの意思決定者に対して、さらなる改善と安全のための助言を行っています。
紋章にはインドの国章である「アショーカの獅子柱頭」がデザインされています。
3. Mossad・イスラエル諜報特務庁 – イスラエル
有名諜報機関ランキングで、つづいて紹介するのはイスラエルのモサドです。本部はテルアビブ・ヤフォにあり、1949年12月13日に発足。ユダヤ人とユダヤ人の利益を守ることをモットーに掲げ、世界中の情報を収集しています。
紋章にはヘブライ語の聖句もデザインされています。
4. M16 (Secret Intelligence Service・秘密情報部) – イギリス
M16として知られているシークレットインテリジェンスサービスは、1909年7月4日に発足しています。ロンドンに本部を置き、外国情報の収集を行い、国の福祉と安全のためにイギリス政府を導いています。
紋章には、英国王室を象徴する王冠がデザインされています。
5. GRU (Main Intelligence Agency・ロシア連邦軍参謀本部情報総局) – ロシア
GRUは、「Glavnoye Glavnoye Razvedyvatelnoye Upravlenie」の略で、ロシア語で主要情報局を意味します。世界最大の国際諜報機関のひとつで、モスクワに本部があります。1992年5月7日の発足以来、ロシアの福祉と安全のために活動しています。
GRUの紋章は、旧KGBの紋章を継承したデザインです。
6. ASIS (Australian Secret Intelligence Service・オーストラリア秘密情報部) – オーストラリア
キャンベラに本部があるASISは、1952年5月13日に発足しました。発足以来、オーストラリアのために、国家の安全を守り、国内外の関係を維持するための活動をしています。
7. DGSE (Directorate-General for External Security・対外治安総局) – フランス
DGSEはフランス語の「Direction Générale de la Sécurité Extérieure」の略で、パリに本部を置いています。DGSEは、アメリカのCIAやイギリスのM16を補完するために機能しています。世界でも人気のある情報機関の一つです。
8. BND (The Bundesnachrichtendienst・連邦情報局) – ドイツ
BNDはドイツ語で連邦情報局を意味するThe Bundesnachrichtendienstの略称です。1956年4月1日に発足されました。
ベルリンにあるBNDの本部は、世界でも最も巨大な諜報本部となっています。
9. MSS (Ministry of State Security・中華人民共和国国家安全部) – 中国
北京に本部を置くMSSは、外国の情報を収集し、中国の政治的安全のために活動している秘密警察機関です。中国のために、1983年7月1日から活動しています。
10. FSS (Federal Security Service、旧KGB・ロシア連邦保安庁) – ロシア
FSSは、ソビエト時代のKGBを後継する機関のひとつで、1995年4月12日に発足しました。本部はモスクワにあります。
11. NDS (National Directorate of Security・国家保安局) – アフガニスタン
有名情報機関ランキングで11番目に紹介するのは、カブールに本部があるアフガニスタンのNDSです。NDSは、国家安全保障局を意味する「National Directorate of Security」の略で、2002年に発足しています。
12. CSIS (Canadian Security Intelligence Service・カナダ安全情報局) – カナダ
CSISは、1984年6月21日に施行されたカナダ安全保障情報局法により発足しました。不審な動きがあれば、CSISにより、ただちにカナダ政府に報告されます。
本部はオタワにあり、情報や諜報の調査、収集、分析、保持を行う権限を持っています。
13. NIS (National Intelligence Service・国家情報院) – 韓国
NISは韓国の軍人で大韓民国第5代〜9代の大統領を勤めたパク・チョンヒによって1961年に発足しました。モットーは「匿名による自由と真実への献身」です。ソウル市瑞草区内谷洞に本部があります。
14. IB (Intelligence Bureau・ 情報局) – インド
IBの本部はニューデリーにあり、1887年から防諜、テロ対策、VIPセキュリティ、反分離活動、国境地域での情報収集、インフラ保護などを注視。アメリカ、イギリス、イスラエルの海外機関や、セキュリティ機関との関係を築いています。
15. FBI (Federal Bureau of Investigation・連邦捜査局) – アメリカ
FBIはテロからアメリカを守るという貢献をしています。本部はワシントンDCにあり1908年7月26日に発足しました。
FBIの紋章にも、アメリカの国鳥、ハクトウワシがデザインされています。
16. NSA (National Security Agency・アメリカ国家安全保障局) – アメリカ
アメリカの国防総省内で活動しているNSAは、暗号、情報、通信、セキュリティのために活動しています。本部はメリーランド州にあり、1952年11月4日に発足しました。
17. NIA (National Investigation Agency・国家調査局) – インド
国家捜査局を意味する「National Investigation Agency」(略称NIA)は、2008年にインド国会で国家捜査局法が可決されたことにより発足しました。ニューデリーに本部があります。
インドで起こるテロ事件のために2009年から活動しており、NIAはどの州においても許可なく活動できます。
18. ISI (Inter-Services Intelligence・軍統合情報局) – パキスタン
有名諜報機関ランキングの18番目はパキスタンのISIです。イスラマバードに本部があり、1948年1月1日に発足しました。以来、パキスタンの安全保障のために活動しています。
19. CIRO (Cabinet Intelligence Research and Office・内閣情報調査室) – 日本
「内調」とも呼ばれるCIROは「Cabinet Intelligence Research and Office」の略で、日本語の名称を内閣情報調査室と言います。日本政府が利用する「五七の桐」をトレードマークに採用しています。1986年に発足し、東京永田町に本部があります。
20. SSA (State Security Agency・アメリカ国家安全保障局) – 南アフリカ
SSAは、かつてNIA(国家情報局)として知られていた国際諜報機関で、NIAが2009年に解体したことを受け、SSA(国家安全保障局)として知られるようになりました。本部は、ハウテン州プレトリアのジョー・ンランラ通りにあるムサンダ・コンプレックスにあります。
世界で有名な諜報機関についてのランキングは以上です。みなさんがご存知のように、無名のまま献身的に国家へ奉仕し、世界中で活躍する覆面捜査官たちに、心から脱帽し、賞賛を送りたいと思います。
世界の武闘派諜報機関トップ13
つづいて、Democracy Index(民主主義指数)を参考に、世界において民主主義のスコアが低い、つまり歴史的に民主主義ではない政府が長かった国の諜報機関をリストアップしました。政治的亡命者が多い国ということは、民主主義を抑圧していることを示しています。上図は、民主主義指数をもとに、各諜報機関の武闘派度をまとめたものです。
政治亡命者が自国に対して行う抗議活動は、非民主主義的な国にとって内政を悪化させる原因となります。そのため、非民主主義的な国は、諜報機関を利用し、国外における政治亡命者の連行や暗殺を企てる可能性があります。
このような理由から、以下では、政治亡命者に対して特殊工作をいとわない武闘派の諜報機関リストをご紹介します。過去に拉致や襲撃の陰謀を企て、報道されたことのある国の諜報機関を、現役探偵が調査してリストアップしました。
1. National Intelligence Organization (MIT・トルコ国家情報機構) – トルコ
「National Intelligence Organization(トルコ国家情報機構)」は、トルコ語表記の頭文字を取ってMITと略称されています。アタテュルク大統領により1926年に創設された内務省傘下のMAHに基づいて、1965年7月22日に首相直属の国家情報機関としてMITが設立されました。
2016年に起きたトルコ軍によるクーデターは、MITの情報により未遂に終わっています。トルコ当局により5万3000人以上が粛清される事態となりました。
2. GRU (Main Intelligence Agency・ロシア連邦軍参謀本部情報総局) – ロシア
つづいて紹介する武闘派諜報機関は、前出のランキング第5位で紹介しているロシアのGRUです。
2014年にチェコで発生したヴルビェティツェ弾薬庫爆発事件では、GRUメンバー2人が関与したとして国際指名手配をされています。この2人は、2018年にイギリスで起きた元GRU大佐父娘毒殺未遂事件に関与した疑いもかけられています。
3. Dirección de Inteligencia・キューバ内務省情報局 – キューバ
社会主義国のキューバは、亡命を希望する人が多数で、亡命キューバ人によるテロ事件の脅威があります。
2014年4月には、キューバ国内で軍事施設を攻撃することを計画したとして、マイアミ在住のキューバ系市民4名を逮捕したとキューバ内務省が公表していますが、詳細は明らかにされていません。
4. SEBIN (Bolivalian Intelligence Service・防諜機関) – べネズエラ
SEBINは、スペイン語で「ボリバル国家情報院」を意味する「SERVICIO Bolivariano de Inteligencia Nacional」の頭文字です。2012年からベネズエラの副大統領に従属する内部治安部隊として活動し、ボリバル政府の政治警察として説明されています。
2019年には、ベネズエラ国会議長のフアン・グアイド議員がSEBINにより身柄拘束されるなどの報道がありました。
5. NDS (National Directorate of Security・国家保安局) – アフガニスタン
有名諜報機関トップ20で11位だったアフガニスタンは、武闘派諜報機関としてもランクインしています。NDSは、2020年12月、首都カブールで武装している中国人10人を拘束していますが、「機微に触れる話」とし、詳細は明らかにしていません。
6. MSS (Ministry of State Security・中華人民共和国国家安全部) – 中国
次に紹介する中国のMSSも、有名諜報機関ランキングで9位にランクインしています。
2021年7月、MSSは、マイクロソフトに対してのサイバー攻撃に関与していると言われており、MSSハッカーらが得た、マイクロソフトの脆弱性について拡散したと報道されています。
7. RGB (The Reconnaissance General Bureau・偵察総局) – 北朝鮮
RGBは、北朝鮮政府機関である国防省の傘下にある対外諜報および特殊工作機関です。韓国や第3国に対して、スパイ、拉致、要人暗殺、情報収集、世論工作、破壊工作を行います。また、外貨獲得を目的とする違法な物品の密売や密輸も担当していると言われています。
8. ISI(Inter-Services Intelligence・軍統合情報局) – パキスタン
ISIは、有名諜報機関トップ20では18位でした。パキスタンの情報機関ISIがイスラム教徒の若者らを支援し、タリバンを創設した経緯は広く知られています。
9. NIA (National Intelligence Agency・タイ王国国家情報局) – タイ
NIAは、1954年1月1日に一般情報や秘密情報を監視および管理する政府情報機関として発足されました。バンコクに本部を置き、タイ王国内閣 首相府に所属する政府の情報機関として活動しています。
10. General Department of Military Intelligence・人民軍情報部? – ベトナム
ベトナムは約48万人もの兵力をもち、人民軍の情報部が情報活動を担っているようです。しかし、詳細は公にされておらず、情報はほとんどありません。
11. VAJA (The Ministry of Intelligence・情報省) – イラン
イランの情報相はテヘランに本部を置き、1983年8月18日に設立されました。VAJAは、国内外において活動する性質上、イランの3つの「主権」となる大臣機関の1つとなっています。
12. GIP (The General Intelligence Presidency・サウジアラビア総合情報庁) – サウジアラビア
サウジアラビア内務省の秘密警察(マバーヒス)として1955年に初代国王により創設されました。その後、2代目の国王時代に対外諜報活動に特化するのを目的に、マバーヒスから分離されています。
13. Military Intelligence Directorate・シリア軍事情報部 – シリア
ダマスカスの国防省に本部を置き、現在のシリア軍事情報部は1969年に設立されました。アラビア語でムカバラトと呼ばれるシリア軍事情報部は、政治に強い影響力を持っています。レバノンがシリアにより占領されていたレバノン内戦では、ムカバラトはレバノンで政治的権威を行使しました。
参考: Countries that Violate Human Rights および 2018 Global Slavery Index
政治亡命者の粛清プロット
非民主主義的国家からの政治亡命者 (Asairum Seekers)は、受け入れ先において人権が保証されます。しかし、自国では、国家反逆罪 (Treason) や不敬罪 (Profanity)などに問われます。指名手配となり、死罪や終身刑等といった重罪が科されることになります。
政治亡命者の出身国の諜報機関の工作員は、自国の治安維持のため、指名手配されている政治亡命者の粛清プロットに従事することになります。しかし、民主主義を掲げている多くの国では、彼らは国際テロリストとみなされます。
諜報機関の手先として利用される探偵
武闘派の諜報機関が、民主化運動を扇動する政治亡命者の拉致や襲撃を実行する場合、それとは無関係を装うカバーストーリーやマネーロンダリングされた資金が用意されます。そして、諜報期間が、カバーストーリーで、亡命者のいる現地国の探偵を雇って、情報収集を代行させる場合があります。そのため、探偵としては、こうした襲撃プロットの間接的な共犯者として利用されないよう注意しなければなりません。
アメリカに亡命しているイラン人ジャーナリストの拉致作戦では、ニューヨークの探偵が利用されました。日本に亡命中のタイ人大学教授の襲撃事件でも、日本の探偵が利用されました。このようなケースにおいて、探偵は、亡命者がいる国の諜報機関から国際テロの容疑者とされてしまいます。事件に巻き込まれると、守る側の諜報機関から苛烈な捜査を受けることになります。
どの国の諜報機関も、超法規的な活動が許容されている要素があります。そのため、国際テロの容疑者とみなされれば、人権を無視した過酷な取り調べや拷問の対象となりえます。このように、国際案件では、一見するとよくある依頼の中にも危険が潜んでおり、探偵として常に鋭い観察力を養うことが必要です。
探偵の行う身体検査
諜報機関の主な目的は情報収集・分析であり、探偵の行う調査に通ずるものがあります。探偵業者は、身辺調査や行動監視のプロなので、収集できる情報量やクオリティに関してはピカイチです。それが諜報機関のターゲット先の国での戦力として重宝される所以です。
プロの探偵は、経歴や犯罪歴、過去の発言に関するメディアチェックといったバックグラウンド調査を得意としています。メディアチェック(メディアサーチ)は、例えば公職に就く人のデューデリジェンスとして行われ、その際の調査を業界用語で「身体検査」と呼びます。
また、諜報活動の業界では、公開情報の調査・分析を行うメディアサーチはOSINT(Open Sorce Intelligence)と呼ばれます。世界でも知名度の高い諜報機関や、諜報活動の重要性を認識している国々では、メディアサーチが情報収集のための主要分野の一つとして確立されています。しかしながら、日本では「公開情報=誰でも見られるもの」として、メディアサーチが軽視される傾向にあり、その結果、例えば、今回のオリンピックの音楽担当であった小山田圭吾氏のスキャンダルが発生してしまいました。
社内や取引先の重要人物のバックグラウンド調査はもちろん、公職に就任する人物やタレント起用の際には、多額の契約料が発生する前に、リスク管理としてなるべく早く身体検査を実施することが重要です。