今回は、2022年1月31日に発足した実質的支配者制度について、興信所・探偵業者の観点から説明します。
なぜ実質的支配者リスト制度ができたのか?
日本では、法人の登録を証明する唯一の証明書である、登記簿謄本に、株主リストの登録がありません。
法人の代表者や役員は、株主や出資者できるとは限りません。マネーロンダリングや、不正な企業活動を防止する為には、法人の本当の支配者を確認する必要があります。
犯収法(犯罪収益移転防止法)の規定により、金融機関は、2016年から、顧客の法人に、実質的支配者を自己申告させていました。
自己申告の書類だけでは公的証明ではないため、法務局が実質的支配者リストを保管し、公的に証明する制度が、新たに創設されたわけです。
実質的支配者リストの提出要件
実質的支配者リストの提出を求められるのは、以下のような場面です。
- 金融機関の手続き(預金口座の開設や200万円を超える大口現金取引)
- 不動産の取引(宅地建物の売買契約の締結)
- クレジットカード契約の締結(1回のリース料が10万円を超えるファイナンスリース契約)
実質的支配者リストの調査
実質的支配者リストで、理論上、大株主や大口出資者等、裏に隠れている実質的支配者を確認できます。
なぜ、理論上というかというと、この制度は、第三者が水面下でリストを確認できるものではないからです。
対象法人が、自主的に、実質的支配者リストを法務局に提出し、法務局に認証文付きの実質的支配者リストの交付を受けるという制度です。
登記官の認証付きの証明書が発行されるので、公信力はあります。しかし、調査担当者が、法務局から第三者開示を求められるものではありません。
実質的支配者とは
実質的支配者とは、法人に支配的な影響力を有する「自然人」(個人や上場企業等)です。
- 大株主
- 大口出資者
- 大口債権者
- 創業者
これは、2016年10月1日改正の犯収法の規定によります。
実質的支配者は、法律用語では「自然人」に限定されます。簡単にいうと、「自然人」は、原則、個人のことですが、上場企業やその子会社も該当します。その他、国や地方公共団体、法人格のない社団法人や財団法人も含まれます。
実質的支配者の判定基準
厳密にいうと、以下の法人の法人タイプによって、実質的支配者の判定基準が変わります。
株式会社、有限会社、投資法人、特定目的会社
- 25%超の議決権保有者(出資者)
- 大口債権者・大口取引先・創業者等(出資・融資・取引等で、支配的な影響力のある者)
合同会社、合名会社、合資会社、一般社団・財団法人、学校法人、医療法人、社会福祉法人、医療法人等
- 収益総額の25%超の配当権利者
- 出資・融資・取引等で、支配的な影響力のある者
直接出資と間接出資
実質的支配者は、直接の出資者だけとは限りません。支配者と対象法人の間に別会社が入っている場合があります。
間接出資パターン1
個人Aが、法人Bに対する議決権(出資比率)を50%以上保有する場合、個人Aが対象法人に対して間接的に議決権を保有(出資)しているとみなします。尚、個人Aから法人Bへの出資比率は50%超の場合のみ、間接保有とみなされます。
個人A
↓ 50%以上出資
法人B
↓ 出資
対象法人
間接出資パターン2
個人Aは、対象法人に15%直接出資している。そして、個人Aは、法人Bに15%出資している。更に、法人Bは、対象法人に50%出資している。この場合、個人Aは、45%の出資者(議決権保有者)とみなされる。尚、個人Aから法人Bへの出資比率は50%超の場合のみ、間接保有とみなされます。
直接出資15%+間接出資30% = 合計45%出資
個人A
↓ 15%出資
対象法人
個人A
↓ 50%出資
法人B
↓ 30%出資
対象法人
参照: