日本の郵便配達制度は世界でも類を見ない配達精度を現在でも維持しています。電子メールやSNS等のデジタル的な通信手段が主流化する中、郵便局の経営が悪化し、世界の多くの国で郵便局のサービスがあまり信用されていません。その中で、日本の郵便局は異色の存在です。郵便局は、日本全国の住所の郵便受取人を登録したデータベースを所有しています。このブログでは、付郵便送達や公示送達の際の住居所調査の際の郵便局データの活用方法について解説します。
郵便配達原簿(郵便リスト)
このデータベースは、「郵便リスト」とか「配達原簿」と呼ばれ、郵便配達の外務員はこのリストを元に配達業務を行っています。一度でも、その住所宛に新しい氏名や会社名宛の郵便物が届くと、配達員はその情報を郵便リストデータベースに登録します。
また、その住所から居住者や入居者が転居して、転居届が郵便局に提出されると、そのデータが郵便リストのデータベースに反映されます。もちろん、郵便の転居届を出さない人物も多数います。郵便の転居届は、住民票と違い、届け出義務はありません。ですから、転居済みで新しい入居者が入居しているのに、過去の居住者の郵便物が届いているケースも多数あります。
新しい入居者が、郵便局に、古い居住者の郵便物を配達しないよう届け出をすれば、郵便リストのデータベースが更新されます。これで、古い居住者がそこに住んでいないことがデータベースに登録されます。また、新しい入居者が転入した時、特に戸建て住居の場合、郵便配達員がその住所の居住者に、郵便リストに無い氏名の郵便物を配達してよいかどうか確認します。(絶対ではありません。)居住者が郵便物を受け取る意思表示をすれば、新しい居住者・入居者の名称が郵便リストに登録されます。
上述のように、郵便配達リストは、居住者・入居者の登録データベースとしては、完璧なものではありません。しかし、住民票登録、法人や不動産の登記簿の登録、そして、郵便リストのデータを複合的に照合すれば、精度の高い住居所の確認が可能となります。
住所の有効性と転居先の確認
郵便追跡サービスつきの書留郵便分等で、対象者の住所に郵便を出せば、郵便リストのデータベースで、現在も対象者がどの住所に居住・入居しているかどうかの確認が可能です。もし調査対象者が、住民票を異動していなくても、郵便物の転居届を出していれば、郵便リストには対象者の転居先情報が登録されているわけです。郵便追跡サービスによて、転居届が登録されているかどうかもわかります。対象者宛ての郵便物が転送されて新住所に配達されれば、どこの郵便局の管轄で配達されたかまでわかります。つまり、住民票の異動や法人住所の変更登記がなくても、この方法で対象者のおおよその現住所までは特定できます。
特別送達の実務
裁判所から訴状等の送達は、法律で郵便局が担当することになっています。これを特別送達と呼びます。
訴訟の代理人となると、通常、担当弁護士が、被告の住民票を取得します。訴訟の相手方との関係性を証明する粗明資料があれば、原告本人も住民票取得が可能です。
そして、裁判所に訴状が提出されると、裁判所が、郵便局に特別送達を依頼します。そして、郵便局員が被告に法的文書を送達する流れとなります。
被告が、特別送達に応じ、訴状を受け取れば、訴訟が滞りなく進行します。しかし、被告が個人の場合や、倒産寸前だったり、詐欺会社だったりする場合、特別送達が不成功となる確率が高くなります。多くの場合、被告が訴訟を逃れたい為に居留守を使います。夜逃げなどで実際に被告が転居済みで、行方不明の場合もあります。
送達した時、被告が留守だった場合(居留守の場合も含む)、郵便局は、不在連絡を残します。郵便物の保管期限の7日以内に被告から連絡がなければ、郵便局はもう一度、送達を試みます。それでも送達ができなかった場合、郵便局は、保管期限切れで郵便物を差し戻しします。
被告が、転居済みであった場合、郵便局員は、転居先に特別送達を行います。郵便局が被告の転居先の住所を裁判所や原告に開示することはありません。しかし、郵便局は、転居先で特別送達を実行します。被告が不在だった場合の流れは、上記の説明と同様となります。
例外的なケースを除き、郵便局員は、郵便リストを確認すれば、被告の住所が有効であるかどうか、おおよそわかります。しかし、被告が故意に受取を拒否する場合は、郵便局員はそれ以上の追求を行いません。裁判所は、次に、就業先がわかれば、就業先送達を行うよう指示します。就業先が不明の場合は、休日送達を試みるよう指示します。
それでもうまくいかなかった場合、郵便局の特別送達が不成功に終わり、裁判所が、付郵便送達や公示送達の特別措置の手続きを許可します。
郵便リストの第三者開示
郵便リストは、ある意味、住民票記録の次に、重要な意味を持つ居住者登録システムと言えます。実住所に住民票登録を設定していない人物でも、郵便転居届が登録されていれば、郵便リストでは転居先が登録されているわけです。郵便リストも現在はコンピューター化されているため、氏名での横断検索も実務上可能です。
しかし、住民票を故意に異動させない人物としては、債務逃れの悪質債務者もいますが、ストーカーやDV被害者もあります。子供の連れ去りを正当化する為に虚偽のDV被害を訴えるエセDV被害者もいるのですが、加害者にDV被害者の実住所を通知するわけにはいきません。そういうわけで、郵便局は郵便リストの登録情報を第三者開示する体制にありません。弁護士が弁護士照会を行っても、郵便局は第三者開示を拒否することを慣例としています。
訴状送達の為だけであれば、転送先で被告が訴状を受け取れば、それで訴訟が進行します。被告は、原告の実住所を知らなくても、訴訟には支障がありません。ただし、勝訴判決を得て、強制執行をする段階になると、実住所が不明であれば、動産の差し押さえも不可能ですし、差し押さえのために勤務先を判明させることが困難になります。その意味で、郵便局が理由のいかんに関わらず、郵便リストデータを第三者開示しないという法律には問題があると言わざるを得ません。債務逃れの悪質債務者のプライバシーより、債権者保護を優先すべきだからです。
郵便リストの実態
郵便リストでは、日本国内のほぼ全ての住居や商業ビルの居住者や入居法人のリストが登録されています。家族であれば、全家族の氏名、会社であれば関連法人や同一住所を使用する法人のノリストが登録されています。居住者が転居し、郵便転居届(郵便転送届け)が提出されれば、この転居情報もデータベースへ追加されます。転出届も、家族全員の転居もあれば、家族の一部のみの転居もあります。
例えば、以下のような家族情報も郵便リストデータベースである程度把握可能です。
- 息子だけが独立して転居し、両親のみ元の住所に残っている場合
- 結婚して独立していた娘が出戻りで実家に帰ってきた場合
このような変化も、転居届が出ていれば、郵便リストデータベースに反映されるのです。
更に、郵便リストは郵便受け取人の氏名を全て記録しますから、住民票で同一世帯内にない同居人の存在も把握できるのです。
警察はひそかにこの配達原簿を刑事捜査に活用しています。国家のみが個人データを管理し、民事案件での例外的第三者開示制度が整備されていない現状は、勝訴判決を受けた原告、悪質債務者に苦しむ債権者、養育費支払いを受けられない母子家庭等に救済措置がないということです。なるべく早期にこうした理不尽な現状が改正されることを望みます。
付郵便送達の報告書
特別送達が不成功になった際の、住居書調査報告書は、Japan PIへおまかせください。調査実務に必要な裏事情を熟知し、住居所調査に特化した調査スキルと経験を有したJapan PIが責任を持ってサポートさせていただきます。