今回はオープンソースインテリジェンス、日本語では「公開情報調査」と呼ばれる調査について解説していきます。オープンソースインテリジェンスについての理論や概念は、世間一般にはまだ定着していないかもしれません。しかし、オープンソースインテリジェンスは、国際的な調査業界では、諜報活動の一つの柱として位置付けられています。
オープンソースインテリジェンスとは何か
オープンソースインテリジェンスは、単なるインターネット検索とは違います。インターネットで対象者の名前を検索するだけでは、判明する事項は限定されています。ディープウェブやダークウェブには、表層的な検索とは別の検索方法が必要です。これらの領域には、表層的な検索には登録されていない情報が無数にあります。
さらに、公開情報については、公開されているからといって、誰もが簡単にアクセスできるということではありません。会員制のデータベースで、有料で購入する情報もあります。また電話、FAX、手紙、Eメールなどでデータ保有者にアクセスして、開示請求をすれば公開されるという種類の情報もあります。
以下、日本の法務局の、法人や不動産の登記簿のデータの事例で説明します。法人や不動産の登記情報は、インターネット検索では取得できません。ただし、法務局や有料のオンラインデータベースにアクセスすると、取得が可能となります。
但し、登録されているデータの全文検索ができる仕様になっているかどうかは、また別問題です。つまり、個人の氏名からその人物が役員就任している法人や所有している不動産を見つけることができるかどうかは別問題ということです。通常は、法人名や不動産住所を指定すると、その法人の情報や不動産の情報を確認できるのみで、登記を管理している法務局のデータでは、その逆の検索ができません。個人の氏名から、関連している法人や不動産をサーチする氏名検索の機能がないということです。
調査業界では、個人の氏名から関連情報を引き出していく作業が圧倒的に多い為、それを可能とするスキルや別のデータベースの活用方法の知識が必要となってきます。それが、公開情報調査(オープンソースインテリジェンス)のキーポイントとなります。
公開情報の種類
公開情報の種類としては、個人に関する情報なのか、法人に関する情報なのかで公開のされ方が変わります。個人に関する情報は、どんどん非公開化されていっているのが世界の潮流です。
個人に関する情報
個人に関する情報の代表格は市民管理データベースです。日本で言えば、住民票と戸籍謄本のシステムです。
どんな国でも、以下のような管理のために市民登録データベースが不可欠な情報となっています。
- 人口統計
- 出生死亡結婚離婚などの登録
- 納税
- 社会保障
- 医療情報
また、以下のような商業活動で、市民登録の情報が連動しています。
- 民事訴訟
- 刑事訴訟
- 金融情報登録
- 破産記録
- 会社設立
- 不動産売買
- パスポート発行
- 各種ライセンス発行
- 電話契約
- ライフライン契約
- 知的財産権
法人に関する情報
法事に関する情報としては、以下の情報があります。
- 法人設立時の情報
- 法人登記の情報
- 決算情報
- 納税情報
- 知的財産権の情報
- ライセンスの情報
- 行政処分の情報
- 破産情報
- 民事訴訟記録
- 刑事訴訟記録
直接情報源と間接情報源の違いについて
公開情報の中には、直接情報源(プライマリーソース)と間接情報源(セカンダリーソース)の分類があります。法人登録の例で説明しますと、直接情報源は法務局が運営している登記データを指します。法人関係者が設立や変更や閉鎖などの登録を行うと、すぐに直接情報源のデータベースが更新されます。
間接情報源は直接情報源から取得したデータを独自のデータベースに格納し再販や再配布をしているデータベースのことです。法人登録の例で言うと、間接情報源となっているデータベース販売の会社は、直接情報源の法務局データに、その他の破産登録のデータ、決算情報のデータ、役員個人の経歴データなども収集し、ひとつの検索可能なデータベースに格納します。そうすることによって、間接情報源のデータベースでは、より広範囲なデータをワンストップで検索できるようになり、データベースに付加価値が加算されるのです。また、直接情報源のデータベースでは、データベースの仕様上の問題で、氏名検索(名寄せ検索)ができないとしても、間接情報源のデータベースでは可能となるわけです。
要するに、直接情報源のデータベースは、概して、検索方法がユーザーフレンドリーではありません。またソース毎で、データのアクセス先がバラバラになるため、ワンストップで広範囲の検索をすることができません。逆に言うと、間接情報源のデータベース会社は、そうした不便さを解消するためにデータベースを構築し、それを収益基盤としています。(行政機関が間接情報源のデータベースを構築している場合もあります。)
ただし、間接情報源のデータベースは、更新された情報が確実に反映されているか分からない部分があります。概して、間接情報源の更新頻度は、直接情報源の更新頻度には及びません。また、間接情報源のデータベースでは、入力ミスや誤情報が含まれてしまう可能性があります。データエントリーの際の誤入力もありえますし、複数のデータが重複入力され、別人のデータと紐付けられる場合もあります。AIを駆使したソーティングが行われているとしても、誤情報を100%回避できる保証はありません。
国や地域別の公開情報
国や地域によって公開情報の種類は千差万別です。世界レベルで分類していくと、おおよそ以下の傾向があります。
アメリカ
- 個人情報に関する情報の公開情報が最も多い
- 法人に関する公開情報が意外と少ない
その他の英語圏諸国
- 個人に関する情報は原則非公開だが、例外規定もある程度整備されている
- 法人に関する情報は公開されている
ヨーロッパ諸国
- 個人に関する情報は原則非公開だが、例外規定も整備されている
- 法人に関する情報は完全公開されている
日本
- 個人に関する情報は原則すべて非公開で、例外規定も未整備
- 法人に関する情報は公開されているが、公開情報の種類が少ない
東アジア
- 個人に関する情報は原則非公開。ただし情報漏洩も横行している
- 法人に関する情報は公開されている
※日本の植民地であった台湾と韓国では、日本の法人管理制度が導入されており、公開情報の種類が少ないと言えます。
発展途上国
- 情報保護に関する法規定が未整備である国が多数見受けられる
- 個人に関する情報はある程度公開されているが、調査会社などがグレーゾーンの地方で様々な個人の情報を取得できる状況となっている
- 法人に関するデータはある程度公開されている
ヨーロッパにおける情報公開調査の特色
ヨーロッパの国の多くは、EUとして通貨や法制度が共通化されています。しかし、国ごとに、言語や文化や独自の法制度が違うため、ヨーロッパワイドで全ての検索がワンストップで出来るデータベースはありません。
また前述したように個人に関するデータは原則非公開です。ただし調査が必要な時に第三者開示請求に応じる例外規定もある程度整備されているため、個人に関する情報調査が不可能というわけではありません。少なくとも、第三者開示の例外規定が全く未整備の日本よりは、個人に関するデータも取得が容易であることは間違いありません。
ヨーロッパでは法人に関する公開情報は、他の国や地域に比べ公開性、透明性が非常に高い状況となっています。
ヨーロッパの法人の非公開情報調査を行う際は、いきなり直接情報源(プライマリーソース)にアクセスするよりは、間接情報源(セカンダリーソース)にアクセスする方が賢明です。セカンダリソースにプライマリリソースのアクセス先が列記されている場合もあります。セカンダリーソースでおおよその概要を把握し、プライマリーソースでその情報の信憑性を再確認するという考え方で調査を進めていきます。
セカンダリソース参照サイト例
EBRA
e-Justice
https://e-justice.europa.eu/home.do?action=home
ELRA
https://www.elra.eu/european-land-registry-network/
TMView
https://www.tmdn.org/tmview/welcome#/tmview
GENIOS
Zefix.ch
https://www.zefix.ch/en/search/entity/welcome
Company House DE
Opencorporates.com
Investigatoredashboard
https://investigativedashboard.org/
プライマリーソース参照サイト例
Ec.european.eu
Sanc
ESMA Registers and data
https://www.esma.europa.eu/databases-library/registers-and-data
EPO European Patent Register
https://www.epo.org/index.html
EudraGMDP
Companies House UK
https://www.gov.uk/government/organisations/companies-house
Company Register Portal of The German Federal States
https://www.handelsregister.de/rp_web/welcome.do?language=en
まとめ:公開情報調査は、国や地域に特化した調査が必要です。
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