コロナ禍の影響で、世界的に、詐欺件数が急増しています。緊急事態を悪用した詐欺や、自粛生活者の精神的孤立につけ込んだ詐欺が横行しているとされており、今回はその中でもロマンス詐欺と呼ばれるものに注目し、解説していきます。記事の最後には、内容をわかりやすく解説した動画も用意しています。
ロマンス詐欺、または国際ロマンス詐欺と呼ばれる詐欺は、主としてオンラインデートサイトや出会い系サイトなどで知り合った相手に対して、恋人になったふりをしたり、偽の結婚の約束をすることで相手の好意につけ込み、不当に金銭を送金させる振り込め詐欺の一種です。主に詐欺師が海外に住むケースが一般的です。
日本では言語の問題もあり、海外に比べるとまだまだマイナーな詐欺手口です。しかしながら、最新のデータによると、日本における国際結婚は年間約2万1000件となっており、未婚の国際カップルを含めると決して少ない数字ではありません。また、外出自粛によりオンラインデートがどんどん普及していることを考慮すれば、決して他人事とは言えなくなるでしょう。
ロマンス詐欺師が最も多い国は?
まず、最近海外で公開された、ロマンス詐欺についての興味深いデータをいくつかご紹介します。
2017年にアメリカで発表された研究「The Geography of Online Dating Fraud」では、公的なオンラインデートの詐欺師リスト「ScamDigger」のデータを用いて詐欺師の地理的特徴についての調査・報告を行っています。
同研究によれば、国際出会い系サイトのプロフィールに書かれている移住国を基に、ロマンス詐欺師が最も多く見つかった国は以下の14ヵ国でした。
地域別の割合として最も多いのはアフリカ、次いで東南アジアとなっています。もちろん、全ての詐欺師が本当の居住地を記載しているわけではありません。実際、詐欺を行った人のおよそ68%に偽のIPアドレスの使用が検出され、サイトに登録している居住地を偽装している可能性があると述べられています。偽のIPアドレスを使用していた詐欺師の居住国で多かったのは、インフォグラフィックのデータ同様に、ナイジェリア、セネガル、トーゴ、南アフリカ、ガーナなどのアフリカ諸国と、マレーシア、インド、トルコ、フィリピンなどのアジア諸国でした。アメリカやイギリスからのIPアドレスの偽装は少なく、アフリカやアジアに住む詐欺師がVPN等を使用してアメリカやイギリスのIPアドレスになりすましているケースが圧倒的に多数のようです。
アメリカ、イギリス、オーストラリアにおけるロマンス詐欺の実態
アメリカのFTC(連邦取引委員会)の統計では、2019年から2020年にかけて、ロマンス詐欺が2倍に増加し、2020年の被害総額は304万米ドル(約324億円)です。2020年の日本の特殊詐欺の被害総額は278億円でした。したがって、アメリカのロマンス詐欺の被害額だけで、日本の特殊詐欺全体の被害額に匹敵しています。イギリスでは6634ポンド(約99億円)、オーストラリアでは3892オーストラリア・ドル(約32億円)となっています。ちなみに、これら3ヵ国を含む西洋諸国では、特殊詐欺の中でロマンス詐欺の被害額が最も大きくなっています。
英語圏の居住者をターゲットにするなら、英語を話して、道具(通信手段と集金手段)が整っていれば、誰でも参入できます。犯人は、どこの国にいても、詐欺を実行できます。例として多いのは、アフリカ、中東、東欧等の犯人が、シリア駐留中のアメリカ軍人、ヨーロッパの医師や弁護士等になりすますロマンス詐欺です。
Emailやソーシャルアカウントなどのデジタル通信手段であれば、飛ばし名義のアカウントは簡単に作成できます。Dark Webなどで、偽造身分証や、飛ばし名義の銀行口座は安価に手に入るからです。日本で特殊詐欺をするよりも、道具の調達に関して言えば非常にハードルが低い状況です。
詐欺師がターゲットを探す方法は簡単で、Tinder等の出会いサイトに登録して物色すればいいのです。国外駐留アメリカ軍人や医師、ヨーロッパ人の弁護士等を装えば、電話でのコミュニケーションを避けたり、海外送金させる口実が作りやすくなります。
ロマンス詐欺についての記事で登場数の多い国ランキング
続いて、海外のロマンス詐欺についてのデータの中で、一風変わったものをご紹介します。以下のインフォグラフィックは、2019年に発表された調査を基に作成しました。アラビア語、日本語、中国語、英語、フランス語で書かれたロマンス詐欺に関する記事を、それぞれグーグルの検索結果上位から50記事選出し、その中で登場する国の名前の回数を集計した結果を示しています。
驚くべきことに、日本が登場回数第二位となっています。しかしよく見てみると、日本が登場する記事の言語はほぼ日本語と中国語が少々のみとなっており、単純に日本語でロマンス詐欺に関わる記事がオンライン上で多く公開されているということでしょう。また他国についての言及が見られないことから、オンライン上のみに限りますが、あまり海外でのケースは報じられていないということになります。
一位のアメリカを見ると、母国語である英語記事を筆頭に、その他の言語の記事でもその国名が多く登場していることが分かります。イギリスやカナダでは、母国語である英語よりも中国語の記事での登場が多いという興味深い結果となっています。おそらく、イギリスやカナダに居住する詐欺師による被害が多いために、海外詐欺師についての情報が中国語で共有されているものと思われます。
日本でのロマンス詐欺
日本では、ロマンス詐欺に限ったデータは無いものの、警視庁のウェブサイトから、ロマンス詐欺や結婚詐欺を含む特殊詐欺の発生件数を見ることができます。令和2年における全国の特殊詐欺の認知件数の合計はおよそ1万3500件、被害額は278億円に上ります。
また、国民生活センターでは、結婚相手紹介サービスや出会い系サイトに関わるトラブルの相談件数を公開しています。2019年の結婚相手紹介サービスにおける解約や返金、勧誘などに関するトラブルの相談件数はおよそ1600件となっています。同年の出会い系サイトに関わるトラブルの相談件数は約8900件です。ただしこの数字は、ウェブサイト上にも説明がある通り、これらのサイトに関わるトラブル全般を含む数字なので、ロマンス詐欺や結婚詐欺単体のはっきりとした相談件数は不明です。
日本の特殊詐欺の現状
日本国内では、様々な特殊詐欺が横行しています。一見すると社会的にも成功し、詐欺師には見えないような人物が紳士のフリをして優しい言葉をかけ、偽の投資やビジネスなどに誘い込んでお金を奪い取るケースも多く、このような人物は詐欺グループを形成して暗躍しています。しかしながら、日本国内の詐欺は、犯人も被害者も日本人のみです。ただし、電話詐欺のかけ子と呼ばれる犯人は、日本での摘発を逃れるため、中国、タイ、フィリピンなどを拠点に犯行を行う事例が増えています。
窃盗や強盗と違い、詐欺では言葉を流暢に使いこなす必要があり、加害者と被害者が共通の言語を話す必要があります。日本語が公用語なのは日本だけですので、日本人が日本人を騙すという図式になります。
特殊詐欺は警察とのいたちごっことなっています。犯人からすれば、パクられないための道具をどんどん進化させなければなりません。
ロマンス詐欺については、英語が話せる日本人の中年以上の女性が、海外のロマンス詐欺師の被害に合う状況が10年以上前からあり、被害は増加傾向にあります。コロナ禍の自粛生活で鬱屈し、出会いサイトやソーシャルメディアで出会いを求める人が増えたことも、増加の一員です。
以前は、言語の壁の問題で捜査に消極的だった日本の警察も、受け子(詐欺の集金係)が日本に所在する場合、日本国内で犯人を逮捕した事案が出てきています。今まで摘発された犯人は、日系ブラジル人、ナイジェリア人、カメルーン人等の、日本在住の外国人です。
ロマンス詐害の犯人は、日本国内にいても、駐留アメリカ軍人、海外の医師や弁護士等になりすましています。ただし、犯人が国内にいる場合、被害者や日本在住の知人に送金依頼して、国内で詐取した資金を出金します。
日本に住む外国人詐欺師の犯罪手口
海外詐欺師も日本への進出を虎視眈々と狙っています。日本にいる在日外国人が国内で詐欺を行う場合もありますし、海外から日本人にアクセスし詐欺を行う場合もあります。アフリカ・中東・東欧勢は、ロマンス詐欺と遺産詐欺が中心で、中国・香港勢は、ロマンス詐欺の亜流の投資詐欺を中心としています。他に、日本人は被害者ではありませんが、日本を舞台とした海外勢による海外在住者をターゲットとした投資詐欺事件も多発しています。
日本に関連する外国人詐欺師の犯行手口の特徴は以下の通りです。
ロマンス詐欺
アフリカ・中東・東欧勢力が、日本人の中年以上の男女をターゲットとし、恋愛感情を利用して、金銭をねだる詐欺です。
投資詐欺(ロマンス詐欺亜種)
中国・香港勢力が、日本人男性への恋愛感情を利用してFXや仮想通貨投資に誘い、預金を詐取する詐欺です。
巨額遺産詐欺
ナイジェリア人の犯行が横行したことから、Nigerian Scamと呼ばれています。凍結された大富豪の遺産があり、被害者がその資金の出金を手伝えば、多額の謝礼が入るという設定で、資金移動の手数料を詐取する詐欺です。日本国内の「M資金詐欺」の変形で、企業経営者が狙われます。
架空日本会社の投資詐欺
日本の安定したイメージを悪用し、架空の日本の投資会社を舞台として、海外勢が海外居住者を狙う投資詐欺です。詐欺に使われた架空会社は、日本の金融庁でもCold Callersとして、ブラックリスト化されています。
詐欺で騙すには、ターゲットと言葉が通じる必要があります。海外詐欺師が日本人を騙す時には、言葉の壁があります。また、海外勢力は、日本で有効な道具(飛ばし電話、飛ばし口座、飛ばし住所)の調達にも苦戦します。
一方で、日本の警察にも言語の壁があります。海外詐欺師が外国語で日本人を騙した場合、警察の捜査員は言語がわからないため、捜査をしたがりません。また、犯人が日本との捜査協力協定や身柄引き渡し協定がない国に滞在している場合、現地国での捜査ができない問題もあります。かりに国際捜査が可能だとしてもコストや捜査員の人員面で、捜査を断念する場合もあります。そのため、外国人による詐欺事件が日本で野放しになっている現実もあります。
ロマンス詐欺は、仕込み(被害者との関係構築まで)に時間がかかりますが、大掛かりな人員や道具への先行投資が必要ありません。例えば、海外から日本人を騙して、海外送金させるなら、国境をまたぐことで、警察の捜査がはいりにくくなります。さらに、Dark Webなどで、海外の飛ばし名義口座が入手しやすい環境にあります。その意味で、日本の飛ばし名義口座を用意するよりお手軽です。
Dark Webでは、その他に、飛ばし名義の身分証も入手が簡単です。そういう意味では、Dark Webが詐欺師の道具屋の役割を果たしていますので、海外詐欺師は初心者でも道具が手に入りやすい環境が整っています。
これからはロマンス詐欺に注意!
詐欺師が海外に進出する際には、その国の文化や習慣について熟知している必要があります。日本は文化的な特殊性や異質性から、現状では海外諸国に比べてロマンス詐欺やその他国際詐欺がそこまで流行してはいません。日本では、一般的に詐欺のターゲットとなりやすい高齢者がデジタル通信や外国人との交流に不慣れであり、海外送金も苦手とすることから、高齢者をターゲットとした詐欺者が日本に進出しにくいことも、理由の一つです。
ただし、日本人もコロナ禍の影響で、国民全体のITリテラシーが向上しました。また、オンラインデートなどオンライン上での出会いの場も増加しました。そのため、海外詐欺師が日本へ進出しやすい環境が整いつつあります。
着々と国際化が進む中、ロマンス詐欺に対する知識と対策を学ぶのは賢い選択と言えるでしょう。本記事の内容をわかりやすくまとめた動画もご用意しました。身近な方でロマンス詐欺の疑いがある場合などに、気軽にシェアしていただければと思います。