国際的に見ると、日本ではストーカーという概念が入ってきた時期が遅く、ストーカー対策法の整備も遅れ気味です。ストーカー規制法が施行される前からストーカーは存在しましたが、ストーカーという言葉がなかったのです。
このように、日本ではストーカー犯罪に対する処罰に関する整備や社会認知もまだ発展途上で、ストーカー犯罪は統計上、実数を反映していない可能性もあります。
今回は、日本と海外のハイテク化されてきているストーカー行為の最新事情を解説します。
日本のストーカー犯罪の現状
まずここでは、日本のストーカー犯罪に関する主な統計データを見ていきます。
日本の年間ストーカー相談件数
出典:警視庁 令和3年におけるストーカー事案及び配偶者からの暴力事案等への対応状況について
警視庁の捜査によると、2021年に全国の警察に寄せられたストーカー相談件数は19,728件でした。前年比-461 件、-2.3%と減少しているものの、2015年以降は8年連続で2万件を超す相談件数となっています。
実際に警察に相談するまでに至らない、潜在的な被害があることを考慮すると、ストーカー被害は日本でも増加傾向にあると言えるでしょう。
被害者の性別・年齢
出典:警視庁 令和3年におけるストーカー事案及び配偶者からの暴力事案等への対応状況について
次に、被害者の性別・年齢の内訳を見ていきましょう。
2021年に警察に寄せられたストーカー相談件数19,728件のうち、男性は12.7%、女性は87.6%となっています。年齢では、20代が全体の34.4%と最も多く、次いで30代が22.9%、40代が18.4%、10代が11.1%の順に多くなっており、全体の4割以上が若い10代~20代女性を占めていることが分かります。
世界のストーカー被害比較
次に、日本と世界のストーカー被害の比較を見ていきましょう。
日本と同様に、先進国のストーカー被害のデータを見た時にも被害者や相談者の多くが女性ということが分かります。10人に1人というのはかなり多く感じますが、例えば、アメリカやEU諸国では以下のような統計が出ており、なんと20%近くの女性がストーカー被害に遭ったと答えています。
ただ、比較すると日本は少し少なめになっていますが、それぞれの調査が異なる機関によって行われており、行った年も異なるので一概に日本が少ないとは言えません。
日本
日本の内閣府の調査では、特定の相手からの執拗なつきまとい等の被害経験に遭ったことがあると答えた女性は 10.5%と、全体の1割を占めました。
加害者との関係は「交際相手・元交際相手」が 38.5%と最も多く、次いで「知人・友人」が21.2%、「職場関係者」が20.0%などとなっています。
アメリカ
アメリカでは女性の17%、6人に1人が一生のうちに一度、ストーカー被害を経験しており、そのうち54%が25歳より前に被害に遭っています。
ストーカー行為による心身への影響は大きく、うつ病や心的外傷後ストレス障害につながる可能性があることが研究により示されており、女性被害者の約68%、男性被害者の70%が、生涯のうちに身体的危害の脅威を経験しています。
EU
EU28か国では、18%の女性が15歳以降にストーカー被害を経験、5%の女性が当調査12か月以内に被害に遭っていることが判明しています。
約14%の女性が同じ相手から攻撃的・脅迫的なメッセージや電話を何度も受け取ったことがあり、そのほか、付きまとい被害やサイバーストーキングなどの被害を経験しています。
ストーカーアプリやキーファインダーの悪用
ストーカー犯罪の最新のトレンドとしてあげられるのが、ストーカーアプリ(ストーカーウェア)やアップル社から販売されているキーファインダーのAirTag(エアタグ)といったツールを悪用したやり方でしょう。
ここでは、ストーカー行為に利用されているアプリのGoogle検索数やダウンロード数を国別に比較していきます。
国別ストーカーアプリのGoogle検索数
興味深いデータとして、国別のストーカーアプリの年間Google検索数があります。検索総数で見ると日本は第11位にランクインしています。
出典:https://www.comparitech.com/blog/vpn-privacy/stalkerware/
しかしながら、モバイルユーザー1,000人あたりでみると、日本は6.24で51位、1位のアメリカは29.83となっています。人口を考慮すると、1,000人あたりで6.24、つまり約160人に1人が検索しているということになります。あまり多くなさそうですが、元々英語で行われた調査なので、見落とされたキーワードなどを考慮すると、実際はこれよりも多くなりそうです。
ストーカーアプリのダウンロード数
サイバーセキュリティ企業、NordVPNの調査によると、2020年には、日本全国で1万2,000のスマホやタブレットなどのデバイスを監視するストーカーアプリがインストールされていたことが明らかになりました。この数は前年に比べて70%増となっています。
世界的には監視アプリのインストール数が5%増加し、全世界で113万2,262人以上に影響を与えたと言います。これは、新型コロナウイルス感染拡大による人々の行動の変化の影響と言えるかもしれません。
出典:内閣府男女共同参画局
内閣府によるDV(ドメスティック・バイオレンス)相談件数の年次推移ではコロナ禍以前の2019年から2020年までに、相談件数がなんと1.5倍に増加しています。
コロナ禍による外出自粛や在宅勤務といった在宅時間が増加したことで、パートナーと自宅で過ごす時間が増えたことがきっかけとなり、DVに発展しているケースが増えています。
「相手を支配したい」「独占したい」という支配欲は、DVによる身体的暴力のほか、行動の監視、束縛といったストーカー行為とも密接に関係しています。
最新ストーカーツールとは
最近では、ストーカー行為にアプリの悪用が多く使われるようになっています。これらのツールは従来のGPSトラッカーなどと比較し、小型化と電池寿命とコストの面においてかなり優れているため、ユーザーにとっては便利な反面、悪用される懸念も大きくなっています。
これらは本来、盗難防止や忘れ物を探したり、子供の見守りを目的としたツールです。
ここでは、これらを悪用したストーカーの利用実態を見ていきたいと思います。
ストーカー悪用ツール 1 : AirTag
前述したApple社のAirTagは、鍵や傘といった持ち物に付けることで失くした際にGPSによって追跡できる紛失防止タグです。
一方で、AirTagを悪用して人を追跡するストーカー犯罪が横行していることが社会問題となっています。これを受け、Appleでは2022年2月、AirTagの悪用対策を強化したと発表がありました。
Appleでは今後のアップデートにおいて、相手の同意なしに人を追跡することは犯罪であることや、法執行機関はAirTagの所有者に関する情報の特定を要請できることといった設定時のプライバシーの警告を表示のほか、不要な追跡のアラートを受け取ったユーザーが、不明なAirTagを正確に見つけられる機能などを追加しました。
ストーカー悪用ツール 2 : Tile
Tile(タイル)とは、アメリカのTile Inc.が販売する忘れ物トラッカーで、日本でも2017年より販売が開始されました。
Bluetoothの接続範囲内に忘れ物がある場合に音を鳴らして知らせたり、スマホを失くしたときにはTileをダブルクリックすれば、マナーモードでも音を鳴らして見つけることができます。
TileでもAirTag同様に、悪用を防ぐためストーカー対策機能「Scan and Secure(スキャン・アンド・セキュア)」を導入しています。これは「自分と一緒に移動している自分のものではないTile」を検索する機能で、スキャンするためにTileのアカウントを持つ必要はありません。
出典:Tile’s Scan and Secure Feature Addresses Unwanted Tracking
ストーカー悪用ツール 各社比較
ストーカー悪用ツールは上記だけではありません。その他のツールについて、以下の表で各社の比較をしていきます。
日本でのシェア | 価格 | 悪用防止対策 | プロ探偵判断による安全度 | |
AirTag | 日本ではiPhoneシェアが50%以上のため多い。 | 3,000円前後 | IPhoneでは、悪用防止の自動アラート機能あり。アラート誤作動も頻発。Androidでは手動スキャン。 | IPhoneユーザーには、悪用端末があれば、8から24時間以内に警告が入る。Androidユーザーは気づきにくい。 |
Tile | AirTagに対抗し、タクシー会社と連携し、シェア拡大中。 | 3,500円前後 | アプリを入れれば、悪用防止の手動スキャン機能が利用可能。 | 意識してスキャンしないと悪用端末サーチ不可。Tileを知らない人は気づきにくい。 |
Chipolo | 日本でのシェアは小さい | 3,500円前後 | アプリを入れれば、悪用防止自動アラート機能あり。 | 日本でのシェアが小さく悪用例があるか不明。 |
Samsung Tag | 日本では未発売 | 3,000円前後 | Galaxyユーザーか、アプリを入れれば、悪用防止の手動スキャン機能あり。 | 日本未発売のため、悪用例があるか不明。 |
GPSトラッカー | 通販で気軽に買え、シャアは世界中。 | 2万円程度から | 悪用防止機能なし | 悪用端末スキャン機能はなく、車両に設定されると発見に苦労する。 |
AirTag
日本でのシェア
日本ではiPhoneシェアが50%以上のため多い。
価格
3,000円前後
悪用防止対策
IPhoneでは、悪用防止の自動アラート機能あり。アラート誤作動も頻発。Androidでは手動スキャン。
プロ探偵判断による安全度
IPhoneユーザーには、悪用端末があれば、8から24時間以内に警告が入る。Androidユーザーは気づきにくい。
Tile
日本でのシェア
AirTagに対抗し、タクシー会社と連携し、シェア拡大中。
価格
3,500円前後
悪用防止対策
アプリを入れれば、悪用防止の手動スキャン機能が利用可能。
プロ探偵判断による安全度
意識してスキャンしないと悪用端末サーチ不可。Tileを知らない人は気づきにくい。
Chipolo
日本でのシェア
日本でのシェアは小さい
価格
3,500円前後
悪用防止対策
アプリを入れれば、悪用防止自動アラート機能あり。
プロ探偵判断による安全度
日本でのシェアが小さく悪用例があるか不明。
Samsung Tag
日本でのシェア
日本では未発売
価格
3,000円前後
悪用防止対策
Galaxyユーザーか、アプリを入れれば、悪用防止の手動スキャン機能あり。
プロ探偵判断による安全度
日本未発売のため、悪用例があるか不明。
GPSトラッカー
日本でのシェア
通販で気軽に買え、シャアは世界中。
価格
2万円程度から
悪用防止対策
悪用防止機能なし
プロ探偵判断による安全度
悪用端末スキャン機能はなく、車両に設定されると発見に苦労する。
2022年4月時点では、日本のストーカーは、通販で手軽に購入できる車両盗難防止用のGPSトラッカーを使用するケースが多いです。
キーファインダーは、安価で、超小型かつ電池寿命が長いという利点があります。しかし、位置情報の精度や社会認知度の問題で、現段階の日本では、従来からのGPSトラッカーの方がキーファインダーより脅威であると言えます。
詳しくは「AirTagが悪用された場合の注意点とその対策」にて解説しています。
まとめ・ストーカー被害対策
ストーカーに関するニュースは時折日本でも耳にしますが、どこか他人事のようになってしまっているという人は多いのではないでしょうか。
解説したように、日本でも2020年には1万2,000もの監視アプリがダウンロードされたり、悪用ツールの横行が増加したりと、女性にとっては決して他人事ではありません。
まずは日頃からできるストーカー被害対策をしていきましょう。スマホにしっかりとパスワードをかけたり、安易に自分のスマホを人に貸さないことはもちろん、バッグに見知らぬGPSタグが紛れ込んでいないかを定期的に確認するだけで、リスクを軽減できます。
悲しい事件に繋がらないためにも、深刻な被害になる前に、身を守るための行動・対策を心がけましょう。