日米の法律が、対象者の同意なくGPSトラッカー(Air Tag等を含む)を使用することにどのような影響を及ぼすか、米国では法律が州によって異なりますが、米国の法律に関して、ニュースで報道された代表的な事件について説明します。
GPSトラッカーをめぐるネバダ州訴訟
米国ネバダ州の市長が、市長の車にGPS追跡装置を取り付けたとして、探偵を訴えたというニュース記事がありました。
GPSトラッカーを使ってネバダ州のリノ市長らを監視していた探偵は、不法侵入やプライバシー侵害で逮捕されることはありませんでした。ネバダ州では、GPSトラッカーを使って人や物の動きを監視することは合法なのです。
ネバダ州市長がGPS無承諾使用を巡って探偵を提訴
ネバダ州リノ市長のヒラリー・シーブ氏は12月15日、私立探偵のデビッド・マクニーリー氏と5アルファ・インダストリーズ社を相手に、マクニーリー氏が彼女の自家用車にGPS追跡装置を取り付け、それを使って彼女を撮影・監視したとして訴訟を提起しました。
シーブ氏の弁護士は声明で、装置は自動車修理工場で発見されたと説明しています。2022年11月、シーブ氏はリノ市長に再選され、3期目を迎えていました。彼女の市の関係者も、GPS機器で監視されていました。
訴訟では、少なくとも15,000米ドルの損害賠償が請求されています。
今後、弁護士は私立探偵を雇った人物を特定していくものと思われます。
引用元
Reno Mayor Sues Private Investigator After Discovering Tracking Device Installed on Her Vehicle
各州のGPS規制法
米国のほとんどの州では、許可なくGPS追跡装置を設置することを禁止しています。以下はその一例です。
カリフォルニア州
GPS追跡装置は、車両の登録所有者、賃貸人、賃借人でない者が、人の位置を特定するために使用することはできません。ただし、法執行機関は、電子パワーステアリング装置を使用することが許可されています。
ハワイ州
GPSトラッカーを使用して、他の個人に嫌がらせをしたり、迷惑をかけたり、警告することは、ストーカー行為とみなされます。
マサチューセッツ州
電子通信機器を使用して追跡や脅迫を行った場合、5年以上の禁固刑と1,000ドルの罰金に処される可能性があります。
ミシガン州
他人の車に勝手に追跡装置をつけた人は、ストーカーとみなされます。そして、1年の禁固刑と1,000ドルの罰金に処される。
ネバダ州
ネバダ州改正法179.451は、人または物の動きを追跡するための追跡装置の使用を許可しています。
ニューヨーク州
電子追跡装置を使用して許可なく位置を特定することは、ニューヨークでは違法です。
出典
GPS Laws Of Different States
日本におけるGPS規制法
日本でも、一定の条件の元、GPS機器の無承諾使用が禁止されています。
ストーカー法
2021年8月に、ストーカー法が改正され、GPSの無承諾使用が禁止されました。
ただし、日本のストーカー法では、恋愛感情や好意の感情又はそれが満たされなかった時の怨みの感情で、つきまとい等の行為をすることと定義されています。つまり、恋愛感情充足目的がなければ、ストーカー行為ではないのです。
従って、GPSの無承諾使用があったとしても、恋愛感情充足目的でなければ、ストーカー法は適用されません。
迷惑行為防止条例
東京都の迷惑行為防止条例が、2022年10月に改正され、恋愛感情以外での悪意の感情(いやがらせ)でのGPS機器無承諾使用が禁止されました。
埼玉県、神奈川県、大阪府等でも、同様の改正が行われています。この改正の流れが、今後全部の都道府県で実施されていくものと思われます。
建造物侵入罪
GPS機器を、調査対象者の車両に設置するために、駐車場や家屋の車庫に侵入したことがわかれば、使用者が建造物侵入で摘発されます。
対象者の車両が、公道上に停車しているときに、GPSが設置された場合は、当然、建造物侵入罪にはなりません。
器物損壊
車両の床下に磁石でGPS機器を設置すれば、微細な傷がつきます。床下であれば、傷がつくとは言えないですが、警察は器物損壊罪で使用者を摘発することがあります。
機器の契約違反
GPS機器が、特定の通信会社のレンタル機器である場合は、契約者は使用対象を通信業者に登録していたり、プライバシーの侵害になる目的で使用しない誓約をしている場合がります。
第三者の行動監視のために、レンタルのGPS機器を使用すると、通信会社との契約違反になります。警察は、通信会社に不正なGPS機器を使用した契約者を告訴させるように促します。
そうすると、契約者がGPSの不正使用をしたことになります。
探偵のGPS機器の無承諾使用
ストーカー法は恋愛感情目的、迷惑行為防止条例はいやがらせ目的でのGPS機器無承諾使用を禁止しています。
しかし、探偵は調査依頼に基づいて活動しているため、恋愛感情やいやがらせの目的でGPS機器を使用するわけではありません。
建造物侵入はなく、通信会社のレンタル機器を使用したわけでなければ、GPS機器の無承諾使用だけで、摘発されることはありません。
ただし、GPS機器の無承諾使用が発覚すれば、対象者側から民事訴訟を提起される可能性があります。
まとめ
GPS機器の無承諾使用は、日本でも、アメリカの多くの州でも、おおむら禁止されています。
しかし、日本のストーカー法では、恋愛感情の関連したつきまとい行為でなければ、法律上のストーカー行為とはなりません。いやがらせ目的でGPS機器が無承諾使用されれば、迷惑防止条例で処罰されます。また、GPS機器設置の際に他人の敷地に侵入した場合、建造物侵入罪となります。
ただし、探偵のGPS機器を無承諾使用そのものを禁止する法律はありません。
アメリカの一部の州では、GPS機器の無承諾使用が許可されていますが、GPSの無承諾使用が完全に違法とされている州もあります。